コラム「南風」 「生きている実感」を得る


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 水温14度。12月の上旬に沖縄本島で潜った時より、10度以上冷たい三重県鳥羽市の海中。そこには、アラメやカジメなどの海藻が覆い茂り、「海中林」と呼ばれる景観を作っていた。夏場には濁り、ひどい時には1メートル先も見えなくなるが、冬場はとても澄んでいる。寒さが苦手の私だが「エイッ!」と海中に潜り込むと、その美しい景観に心奪われ、寒さも感じなくなる。

 波にゆらゆらと揺れる海藻。海中に光が差し込むと、葉は透けてキラキラと輝く。太陽光が届く水深20・3メートルくらいまでの浅い海底には、海藻や海草がたくさん生えている。野山に草木が茂るように、海の中に海藻や海草が生えている場所、藻場には、多種多様な生き物たちが生息している。日本の海も沖縄の海も、陸の影響を一番受けやすい沿岸域で、小さな命が育まれ、沖に出ていく。
 この時期、海女さんたちが狙うのは、ナマコやサザエ。ナマコは海底の泥に含まれる有機物や微生物などを食べ、排出する。それをバクテリアが分解して海の生態系に戻す。「海底の掃除屋」―ナマコは、陸上の生態系でミミズが果たしているのと同じ役割を担っている。
 歯磨き粉のチューブから押し出されたような砂の塊、海女さんいわく「ナマコの糞(ふん)を探し」て、ナマコを採る。海中林の上からナマコを探す姿は、まるで鳥のよう。息が続く限り急降下を繰り返し、苦しくなれば水面で磯笛を吹きながら呼吸を整える。
 私たちが口にしている生き物が、どこでどのように生息し、誰がそれをどうやって捕っているのか? それを知ることは、私にとって「生きている実感」を得ることだ。
 海と生き物と「自然と共に」生きている人々。そこから学び伝えていく。まだまだ行きたい所、知りたいことだらけだ。
(古谷千佳子(ふるやちかこ)、海人写真家)