コラム「南風」 ヒトが太るメカニズム


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 体脂肪の原料は、栄養素としての脂肪ではなく、糖質(厳密には違いますが、炭水化物とほぼ同じと考えてください。砂糖も含みます)です。肉や脂は、肥満の原因ではありません。

 糖質は穀物、果物、野菜に多く含まれ、小腸で分解されてブドウ糖として吸収されます。その後、血液をたどって脳や筋肉を動かすエネルギーになり、一部はグリコーゲンとして肝臓などに蓄えられますが、使われなかったブドウ糖はすべて脂肪に変えられ、脂肪細胞に貯蔵されます。
 こうして「脂肪細胞が太ること」が、肥満の唯一のメカニズムです。余ったブドウ糖が血中に残り、血糖値や中性脂肪値などを上げることも問題です。
 ブドウ糖を脂肪に変える働きをするのが、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリン。肥満ホルモンとも呼ばれ、太った人の場合にはさらにインスリンが分泌されて脂肪が大量に合成され、もっと太る悪循環になります。
 この高インスリン血症の状態が続くと、働きすぎた膵臓はやがて疲れ果てて故障します。この状態が、糖尿病(2型)です。
 肥満や糖尿病を解決する手がかりは、九州大学が50年以上前から福岡県糟屋郡久山町の町民を対象に行っている研究にあります。久山町では、総摂取エネルギーの60%程度を糖質から取る、高糖質食の指導が徹底して行われました。
 その結果、1988年時点では男性15%、女性9・9%だった糖尿病有病者が、02年には男性23・6%、女性13・4%と増加してしまいました。予備軍を含め、男性の6割、女性の4割が糖尿病になったのです。健康のためにと推奨された食事が、反対に糖尿病の増加を加速させる皮肉な結果を招いてしまいました。
 この悲劇を沖縄で再現してはなりません。糖質を控える食事こそが、長寿県の座を取り戻す秘訣です。
(渡辺信幸、こくらクリニック院長)