コラム「南風」 ささやかなテンション


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 「きれいだねー」
 東京から横浜までの移動中、車の窓から外を眺めていたら、屋形船のちょうちんの灯が、川を流れている。
 「いつか乗ってみたいなー」
 「船の中でおいしい物食べたり、飲んだりしているのかなー」
 電車やモノレール、明かりが走っている風景は、まるで、銀河鉄道スリーナインのよう。東京の夜景を眺めるのは、結構楽しい。

 海の向こうに見える橋や、オフィスビル、キラキラ彩って、照らし始めている。
 「ほんと、キレイ」
 ふと、思い出した。レコードの時代だった頃、アルバムのジャケットに、こんな夜景を見たことがあった。
 「あーっ、この夜景大好きー」
 目の前に見えるのは、インターコンチネンタルのビルと、観覧車の夜景。横浜の夜景を見ているとテンションが上がる。
 夜空には、少し大きめの月。オレンジ色をした半月がかわいい。
 建物からそんなに遠く離れていない距離に、今にも「ぽてっ」、と、落ちそうな格好をしている。まるで甘い味がしそうな色。グミキャンディーのよう。
 地方でライブ活動をする中、いつも一緒になって走ってくれている。今夜の演奏は横浜のジャズ・クラブ「バーバーバー」。ステージへ向けて緊張する私も、この月と外の景色を眺めながら、一時の安心に身を置く。
 しばらく夜景を眺めながら、話も弾んでいる頃、運転をしているマネジャーが叫んだ。
 「あっ、出口間違った…」
 いつの間にか降り立った道。いつもの場所と違うのかどうなのかさえ、私には全く分からない。
 目的地を思い浮かべながら、「大丈夫よ、この道からでも着くはずよ」
 夜景を背に、現実の道のりに満ちる。
(安富祖貴子(あふそたかこ)、ジャズ歌手)