コラム「南風」 落語家・沖な家ビーンです!


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「えー、一席お付き合いのほどお願い申し上げまして…」
 こう話しだした時には、もう完全に開き直っていた。私は昔からやりたいと思ったことには後先考えず手を出してしまう性格だが、この時ほど自分の性格を恨んだことはなかった。

 あれは昨年の11月。チャリティーイベントで私は寄席名「沖な家ビーン」として落語家デビューした。この寄席名は、ラジオ沖縄の森田明社長の学生時代の寄席名「沖な家三語笑(さんごしょう)」から“沖な家”をもらい、下の名前はイギリスのコメディアンMr.ビーンに私が似ているという理由から命名された。生放送での「落語に挑戦してみたい」という何気ない一言が、まさかこんなことになるなんて誰も予想していなかっただろう。落語家デビューの企画を一番驚いたのは私だった。
 落語をする上で使う道具は扇子と手ぬぐいのみ。頼る道具が限られている分、何人もの登場人物や情景を喋り手の身一つで表現しなくてはならない。そういう意味では、音だけの世界にいるラジオアナウンサーとしては、落語から学ぶことは多くあった。実際私が体験をしてみて、「アナウンサー」と「落語家」に共通して言えることは、どちらも「間」の取り方が難しいということ。ビートたけしさんが著した「間抜けの構造」にも書かれていたが、「間」は使い方を間違えれば「間」から「魔」に変わるほど、話す上では大切な要素なのだ。
 実際、本番では「間」のことなどすっかり抜けていた私は、観客からは「間抜け」な喋り手に見えていただろう。なんせ落語が終わり、下手に退場する際に足がしびれて立てなかった場面で一番の笑いをさらったのだから。
 もうすぐアナウンサー3年目。言葉の引き出しを増やすことから、そろそろ「間」を使えるようになりたいものだ。
(伊波紗友里(いはさゆり)、ラジオ沖縄アナウンサー兼記者)