コラム「南風」 五感


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 仕事柄、月に1回~2回出張で県外へ行く機会があるのだが、那覇空港に着くといつも感じる事がある。どんなに疲れて帰ってきても、この空港の花たちに出迎えられるだけで、心がほっとする。もちろん、帰ってきたなぁという安堵感(あんどかん)もあり、深層心理も働いてはいるとは思うが、少なくとも鮮やかで豊かな香りを放つ南国の花々は、見ているだけで元気を与えてくれ、癒やし効果は抜群だ。沖縄の人々が元気で明るいのは、やっぱり暖かい気候と、ビタミンカラーたっぷりの自然のおかげなのだろう。

 私たち人間は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つの感覚(五感)を通して世界とつながっている。人は、何かを感じとるというこの五つの感覚で、真っ先に「外部からの情報」を受けとめるのだ。「嗅覚」は記憶や経験とのつながりが大きく作用するが、空港の花々に癒やされる現象は、この嗅覚と視覚がもたらすものといえる。
 この「五感」のうち、例えば“嗅ぐ”という感覚。大昔、人は今より多くのにおいを嗅ぎ分け外敵から身を守ったといわれている。また味覚で、毒性には苦さ、腐敗には酸っぱさを感じるのは本来、危険信号を察知するためであり、“触覚”においては、痛みとしての反応を感じる等、感覚とは、本来とても動物的な“人が生きるためのアンテナ”だといえる。
 しかし、感覚は危険を察知するためだけに必要なものとも言い難い。私たち人間は、長い年月をかけ、この感覚を通して、見ることから絵画を、聴くことから音楽を楽しみ、味わいはグルメへと、“アート”の粋へと感覚を高め、文化としての発展を遂げてきた。
 感覚を楽しむ気持ちは生きる事を豊かにしてくれる。使わなければ衰えていくとも言われている五感。そうならないためにも、五感を通して、心豊かに生活したいものだ。
(山川杉乃、うみない美代表)