コラム「南風」 未知の言葉との遭遇


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 新しい世界に踏み出せば、新しい言葉に出合う。外国語は言うまでもないが、方言や業界用語も然(しか)り。

 私が社会人としての第一歩を踏み出したのは、テレビ局。業界用語に満ちあふれていた。上(のぼ)り(全国ネットのニュースで放送すること)、ぶら下がり取材(出入り口で記者が囲んで行うインタビュー)、しばり(解禁日時がある)などなど。特に警察担当(サツ担)になってからは、「サンズイ」(汚職事件)「ガサ」(家宅捜索)…略語や文脈から分かる時もあれば、全く想像できないものもあった。そして、それらを初めて自分自身の口で発してみた時の、何とも言えないもどかしさのようなものを、よく覚えている。新参者の分際で、訳知りなヤツと思われないかと。(全くの杞憂(きゆう)にすぎなかったが。)
 振り返れば、そんな気持ちも一種の通過儀礼のようなもの。口に出すのを迷うのは、ほんの一瞬のことで、それほど時間もたたない間に、気がつけば違和感なく使っているものだ。
 話は変わるが、埼玉県出身の私の夫は、5年間の沖縄勤務と、その後20年近く沖縄と付き合って、“沖縄通”を強く自認している。そんな夫だが、里帰りしていた私の出産に立ち会った時のこと。助産婦さんに「どぅまんぎないでね~」と言われて、どぅまんぎていた。「意味分かる~?」と聞かれ、「わかりません…」と夫。頭をフル回転させているのが分かって、おかしくなってしまった。
 そういえば、いとこの旦那さん(山口県出身)も、「ほら、あのヨーガリーの人、いるでしょう?」と言われて、名前かと勘違いし、「ヨーガリさん」と呼び掛けてしまうところだったとか。
 「どぅまんぎる」も「ヨーガリー」も、そんなエピソードを聞くと、本来の意味とは別に、なんだかやけに愛嬌(あいきょう)のある言葉のように思えてきてしまう。
(橋本理恵子、元琉球放送記者)