コラム「南風」 中学生と絵本(下)


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 夏休みのこと。お盆休みということで帰省中の与那嶺さん親子にデパートで偶然再会しました。私が学校図書館司書をしていたころのA小学校の読み聞かせボランティアのお母さんです。6年前、子どもたちの卒業を機に本土へ引っ越してしまわれたのです。

 開口一番、「京子先生のエイサーガーエ(版画家で絵本作家の儀間比呂志さん著)がまた聞きたい」と懐かしそうに話を切り出しました。
 沖縄の小学校の運動会では必ずと言っていいほど、6年生の演目になるエイサー踊り。エイサーの由来も分からないまま練習に励む子どもたちです。エイサーの意味を理解させた上で演ずる「エイサー踊り」はきっと子どもたちの宝になる。そんな思いがありました。
 『エイサーガーエー』はお盆に招かれたご先祖様への供養として歌い、踊る大切な沖縄の伝統踊りだということを理解する、まさにうってつけの絵本です。与那嶺さんは、私がページを繰りながら歌う、エイサーの歌まで覚えていました。
 儀間先生には沖縄を題材にした版画絵本が数多くあります。『飛びアンリー』『ジョン万次郎物語』『ツルとタケシ』など。
 『ツルとタケシ』は2005年の出版の年に沖縄愛楽園で「『ツルとタケシ』を絵本にして」と題した儀間先生の講演会に参加したことで、私の中では特に忘れがたい一冊です。
 太平洋戦争末期、ハンセン病の差別の中で明るく生き抜く兄と妹の姿を描いた、儀間先生の「沖縄いくさ物語シリーズ」の一冊です。ハンセン病と戦争という難しいテーマを絵本にした感動の書です。「差別の先入観のない子どもたちに読んでほしい」。儀間先生はこう述べました。中学生の多感な心で何かを感じ取ってほしいと思います。命の尊厳と平和への思いが版画に込められています。
(平良京子、県子どもの本研究会副会長)