コラム「南風」 睡眠研究


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 睡眠は古来、夢占いで重要な役割を果たし近代に至るまで神話や物語、哲学の世界の範疇(はんちゅう)にとどまっていた。平安時代の宇治拾遺物語には他人の夢を買う話もある。精神科医のフロイドは“抑圧された潜在意識”として夢を解釈し、精神分析法により20世紀以降の文学・芸術・人間理解に甚大な影響を与えた。

 しかし睡眠とは何か、なぜ人生の3分の1を寝るのか、その役割について研究が本格化するのは1950年代に睡眠が脳波、眼球運動、筋電図を基に定義されて以降である。他の医学分野に比べて非常に若い学問である。1970年代に睡眠と呼吸を同時に記録する睡眠ポリグラフ検査が発明され、その後、睡眠物質、覚醒ホルモン、体内時計などの発見や脳科学と共に急速に進歩している。社会や経済に及ぼす影響を研究する睡眠社会学も台頭している。
 かつては睡眠障害といえば不眠症を指していたが、現在では睡眠時無呼吸症候群などの睡眠呼吸障害、ナルコレプシー(居眠り病)などの過眠症、睡眠リズム障害、夢遊病やレム睡眠行動異常症など睡眠時に異常行動を示す睡眠随伴症、睡眠中足などに異常感覚を示すムズムズ脚症候群などの睡眠運動障害と70以上の病気が知られている。
 われわれは夜間睡眠検査を通して種々の症例に遭遇し、睡眠時無呼吸症候群だけでなく精神科領域以外の睡眠障害全般の診療をするようになった。まれとされていたナルコレプシーやあまり知られてなかったムズムズ脚症候群も当初から多数治療してきた。
 日本人は韓国と共に世界でも平均睡眠時間が最も短く、今後も睡眠障害は増えると予測されている。子供の睡眠障害も深刻な問題であるが専門家は極めて少ない。微力であるが今後とも睡眠の重要性を訴えつつ、睡眠医療の発展に寄与したい。
(名嘉村博、名嘉村クリニック院長)