コラム「南風」 北国の思い出


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 秋が深まってきた。セーターやコートを出したり、ちょっとした冬支度をしていると、東北で暮らした日々が思い出される。

 夫の転勤で青森県八戸市で3年間を過ごした。
 八戸を初めて訪れた日は、5月も半ばだというのにまだ肌寒く、夜、飲食店に入ると、ストーブをたいていたことを思い出す。とにかく、気候の違いとそれに伴う生活の違いに驚き、カルチャーショックの連続だった。
 北国の夏は、本当に短い。寸暇ならぬ“寸夏”を惜しんで、人々は祭りやアウトドアのレジャーに繰り出す。そして、8月のお盆のころを過ぎると、朝夕にはもう秋風が吹くようになる。
 八戸市は、太平洋側に位置しているせいで「青森といえども、雪は降らないよ」と、地元の人に言われて安心したのだが、“降らない”ということの意味が違っていた。確かに、人の背丈ほどの積雪、というようなことはなかったが、青森の他の地域に比べたら降らない、ということ。基準が違うから、沖縄出身の私に言わせれば、「結構降る」のだ。真冬は最高気温が零度を下回る日も多いから、道路も除雪された雪も、かちんこちんに凍ってしまう。外に出れば、耳やつま先から、刺さるような冷たさが伝わってきた。洗濯物も外に干すことができなかった。
 雪が降らない日も、どんよりとした鼠(ねずみ)色の雲がどこまでも空を覆っていて、沖縄のあの降り注ぐような太陽の日差しが、恋しかった。
 そんな厳しい季節の中で、私は春を待つ気持ちを初めて知った。そして、目覚めるように、緑が芽吹き、花が咲き、風景が色を取り戻していく様子に感激した。そして、何より知り合った人たちが私たちを支えてくれたことがうれしかった。
 北国では、もうすぐ長い冬が始まるころだ。
(橋本理恵子、元琉球放送記者)