コラム「南風」 スポーツとドーピング


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 「その筋肉って、薬でつくるんでしょ?」。筋骨隆々とした選手の身体を見て、あるご婦人がこんなことを口にした。日々のたゆまぬ選手の努力の賜物(たまもの)である筋肉の成長を、薬の効果だと言われ、頭が痛くなり寝込みそうになった。筋肉をつくる薬は実在する。多くは医療用である。本来の目的以外で使用することを、スポーツ界においては「ドーピング」と言い、競技の公平性や選手の安全性、倫理的な立場からもドーピングは由々しき問題行為だ。

 当時、世界最速を競うレースに世界中が注目した。ソウルオリンピック男子100メートル決勝、アメリカのカール・ルイスと、カナダのベン・ジョンソンであった。軍配は世界記録をたたき出したベン・ジョンソンに上がったが、その数日後、ドーピング検査で薬物が検出され、世界中があぜんとする中、金メダルは剥奪された。一方、かぜ薬、うがい薬、目薬、湿布薬等、普段われわれが使っている日常的な薬にも禁止物質が潜んでいる可能性はある。検査では、「知らなかった」は通らない。無知が引き起こすドーピングも心配だ。
 先日、うちの部員が腹痛を起こし、近くの病院へ行き、胃腸炎と診断され薬を処方された。ドーピングにならないか尋ねたが、あやふやな医者の態度に疑問を抱き、彼はすぐさまに専門機関へ問い合わせたという。その時ようやく禁止物質が含まれていることを知った。彼は国際大会にも参加し、国際競技団体からの検査対象者登録リスト選手であった。もし仮に問い合わせを怠り、服用していればと考えたら身の毛もよだつ。
 スポーツはフェアでなければならない。安全で偏りがあってはならない。だから、スポーツ界からドーピングは排除されるべきだ。しかし、決して選手だけの問題ではない。社会全体の問題として、皆で真剣に取り組んでくれたらと切に願う。
(金城政博(きんじょうまさひろ)、豊見城高校ウエートリフティング監督)