コラム「南風」 医療観


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 「医者に殺されない47の心得」(近藤誠)という本がよく売れているようだ。著者は日本では乳がんの手術が乳房を全部摘出することが標準治療とされていたころに、現在主流となっている温存手術の導入をいち早く提唱した医師である。以後、氏の本は折に触れて読んでいるが強い信念と勇気を感じる。内容に同意はできない部分もあるが納得できる点もある。

 示唆に富んでおり一律に全面否定や正誤、真偽の問題とするには逡巡(しゅんじゅん)する。
 医学や科学は既成概念に挑戦した人々によって変化・進歩してきた。歴史をたどるとどの分野でも主流と違った意見や理論は当初批判の対象となっている。医師はその都度最良を目指して治療するが、現在の方法が絶対唯一とするのも危険な感じがする。
 出張の折によく読む週刊誌で、現在がんの治療中の大橋巨泉氏が「今“がんと闘うな”という医者も居るが、僕は疑問に思っている。それは医者が決める問題ではなく、患者が決定すべき問題だと信じている。人間十人十色、考え方、人生観それぞれ違って当然である、譲るところは譲るが譲れない線は患者が決める」と述べている。これにも同感である。
 しかし自分で決めるには情報と判断する能力と勇気が必要となる。私は近藤、大橋両氏の意見は一見相反するように見えるが、“自分でよく考え判断する”努力の重要性を示唆している点では一致していると思う。
 現在はテレビや新聞など既成のマスメディアだけでなくインターネットなどで玉石混交さまざまな情報が溢(あふ)れている。何を基準に判断するか問われている。問題によっては患者と同様医師も悩む。医療者の役割は情報を提供し、患者さん自身が決断する手助けをすることにある。相互信頼が鍵となる。
(名嘉村博、名嘉村クリニック院長)