コラム「南風」 感動を与えよう


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 「味の素ナショナルトレーニングセンター」で開催された「ジュニア・エリート合宿」に、今年も参加させていただいた。参加者は、全国から選抜された男女30人の高校生アスリート。今年の話題は、もちろん2020年東京オリンピック開催決定であった。オリンピックに出たい。真剣なまなざしで語り合う選手たち。オリンピックは、もうそこまで迫ってきている。

 期間中、元NHKアナウンサーの山本浩さんとお話する機会があった。山本さんといえば、サッカーの名実況アナでNHKのエグゼクティブアナウンサーの肩書を持つ。数々のスポーツを知っているだけに、一番感動したことは何かと伺った。「前畑、頑張れです」ときっぱり。
 前畑秀子選手は、1936年ベルリンオリンピックに出場した競泳選手。当時、ラジオの放送時間が国により制限されており、前畑選手のレース直前が放送が切られる時間だったという。このままでは実況が届かない。アナウンサーが機転を利かせた。国を国民にたとえ、スイッチを切ろうとしている係の手を止めようとした。「国民の皆さまどうかスイッチを切らないでください。前畑頑張れ、前畑頑張れ、どうかスイッチを切らないでください。あと10メートル、あと5メートル、前畑頑張れ…」「切らないで」と「頑張れ」を、繰り返して懇願する。ついに彼の思いは届き、金メダル獲得の声は、途切れることなく遠いベルリンから日本に届いたという。山本さんを囲んで話を聞いていた全ての指導者が感動し涙を流した。
 スポーツは、人々を感動させる。スポーツマンは感動を与え、それを取り巻く人々も、感動を広めることができる。沖縄から、オリンピック選手はきっと出る。諦めない夢は、必ず実現する。感動を、沖縄から広げていきましょう。
(金城政博(きんじょうまさひろ)、豊見城高校ウエートリフティング監督)