コラム「南風」 しまくとぅばの復権


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 2009年2月21日の「国際母語の日」、ユネスコは世界危機言語地図を発表した。それによって、日本国内で使用されている固有の言語として、日本語とアイヌ語の2言語から、新たに六つの琉球諸語と八丈語が加えられたことで、国内の固有言語使用の構図が大きく様変わりしている。

 先祖代々受け継いできた琉球列島における言語が絶滅の危機に瀕しているとして警鐘を鳴らしているだけでなく、それらが単に日本語の方言ではなく、別の独立した言語であるという見方がその発表ではとられている。
 琉球諸語とは千年以上にわたり受け継がれてきた「しまくとぅば」のことであるが、1879年の廃藩置県を機に、日本語の方言の中に無理やり押し込められてしまった。その後の130年にも及ぶ閉塞(へいそく)状況からやっと解放され、晴れて言語本来の姿を取り戻したという意味で、09年は琉球の伝統的な言語の復権元年とも言える記念すべき年である。
 そうは言っても、しまくとぅばを「方言」と呼ぶ人の方が大多数である。その内訳は、語彙(ごい)が古い日本語との関係が深いとか、しまくとぅばの言語的な位置づけが確かでないとか、あるいは単に無自覚・無批判に使う場合がある。次回以降ではしまくとぅばが「方言」ではないという見方を取りあげている。
 県内では、06年に「しまくとぅばの日」条例が施行され、しまくとぅばという言葉は「しまぐち」「しぃまむに」などの類語をおさえ、親しまれ定着しつつある。当然ながら、しまくとぅばにおける「しま」は〈地域〉なので、県内の「伝統的な地域語」を指している。なかなか便利な言葉で、琉球諸語全般にも沖縄語、宮古語、八重山語のように個々の独立言語にも使える。さらに「しま」を特定すれば、首里や那覇のことば、泊ことばを指す場合もある。
(宮良信詳(みやらしんしょう)琉球大学名誉教授(言語学))