コラム「南風」 マイ・ウェイ


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 「十五、十六、十七と私の人生暗かった」。ご存じ「圭子の夢は夜ひらく」。このように人は自分の過去を定義したがります。特にネガティブ(否定的)に。しかも一度思い込んでしまうと、それに合致するエピソードだけが浮かびます。認知的一貫性の原理です。私の人生暗かった、と言えば嫌な過去ばかりが思い出されます。どうすればいいでしょうか。

 まずは「人生楽ありゃ苦もあるさ」(水戸黄門のテーマ曲)、涙の後には虹も出る…と考えてみてはどうでしょうか。苦しいことの後に喜びが来ると知っていると苦もまた楽し。見通しがあると楽になります。これは未来志向の考え方です。
 でも苦悩が深く長引くと楽天的に考えていられません。「悲しくてやりきれない」(ザ・フォーク・クルセダーズ)。限りないむなしさの救いはないだろう…。自分だけが不運、不遇で、誰も認めてくれないと嘆きの淵(ふち)から抜け出せないこともあります。この染みついた不幸物語からの脱却を目指すのがナラティヴ・セラピーです。それは対話によって苦悩に意味を発見し新しい物語を創造するやり方です。セラピストは好奇心をもって語りを聴きます。
 「人生を語らず」(吉田拓郎)と言うけれどフォーク歌手は多くを語ります。人は音楽だけでなく、小説や映画、絵画などを通して人生を語っています。どのジャンルに惹(ひ)かれるかは個人の感性によりますが、私たちは他人のストーリーに重ね合わせて(投影して)自分の人生を見直す作業を無意識に行っているのです。
 あなたはどうしていますか。もちろん私は歌です。「マイ・ウェイ」(フランク・シナトラ)。「今人生の終末が近づいてきて、後悔することなどない。なぜなら自分の信じるままに生きてきたのだから」。うーん、そんなふうに言えたらいいですね。
(長田清(ながた・きよし)精神科医)