コラム「南風」 奥さまは魔女


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 虹のかなたのどこかに  すてきなおとぎの国が  きっとあるわ(「オズの魔法使い」主題曲)。竜巻で飛ばされたドロシーは、心が欲しいブリキのきこり、脳が欲しい案山子(かかし)、勇気が欲しいライオンと共に魔法の国を目指します。まるで心理療法を比喩しているようです。

 こんな話に憧れて、昔々催眠技法の習得に励んだことがありました。催眠といっても眠らせず、会話の中に比喩やメタファ(暗喩)を入れて暗示するものです。現代催眠の父ミルトン・エリクソン(米国の精神科医)の直弟子のザイクやギアリーから多く学びました。
 ザイクはおしゃれな都会人で、彼の研修会では毎回奇想天外な対話の練習をさせられました。ジブリッシュ(でたらめ語)対話や口パク対話、目で語る対話など。この訓練は意外にも統合失調症の患者さんとの対話(心を通わせる)に役立ちました。ザイクは500以上の対話レッスンの型を作ったと言っていましたが、私も100近く編み出しています。まだ彼には及ばないけれど「思えば遠くに来たもんだ」(海援隊)。
 ギアリーはシャイで、説得よりは包み込むという感じの人。彼から教わった人前で上がらないテクニックは、イメージの中で聴衆を裸にするものです。以後私は壇上で緊張すると、会場には裸の人が並んで座っているイメージを作り気持ちをほぐしてきました(心象凝視法)。まあ最近は緊張しないので、脱がせることはしませんから安心して私の講演を聞きに来てください。
 あなた好みのあなた好みの女になりたい…「恋の奴隷」(奥村チヨ)、そう言ってもらいたくて家内にも暗示をかけて33年。でもふと気付いてみると、食事のスタイルも服も、車もその色も、クリニックの内装、家具など全てが家内の好みで統一されています。私の「奥さまは魔女」?
(長田清(ながたきよし)、精神科医)