コラム「南風」 現代の妖怪


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 陽光を浴び青空を眺めていると体中に沸々と幸せが満ちてくる。こんなシンプルな喜びを忘れずに過ごしたい。しかし日々カウンターでさまざまな話を聞いていると個人の世界観とは千差万別であり、それに付きまとう悩みもやはりその数だけあるのだと痛感する。

 この仕事を始めて学んだことの一つに、第一印象は大切だが何度も会って話をしてみないと人の本質は見えてこない、ということがある。それでも実際に見える姿はほんの一部分であるはずだから信頼できるのは自分を大きくも小さくも見せない、あるがままの人が良いと言えよう。
 以前いつものように接客をしていたら、宮古島出身の男性客が泡盛を飲みながら、こう教えてくれた。
 「君たちの仕事は感情労働だね。肉体労働は対価を得やすいが、感情労働は目に見えない。だから大変でそれだけ大事な仕事だよ」。ストレスを抱えた方の話を聞き続けるのは重労働だ。接客で話の相手をするのも心を使う。「感情労働」とはおもしろい、と感心した。
 沖縄は地域柄無欲の感情労働者が多そうだ。誰かが誰かのためを思い、つながりあって暮らしている。
 ストレスとは現代の妖怪のようなものではないだろうか。妖怪が現れるのには原因があるはずだ。けして悪いだけのものではないが生きていくうえで上手に付き合う術を身に付けなくてはならない。曖昧な表現に潜む実体を捉え、対策を練ることだ。例えば夢中になれるものを見つける。気分転換できる場所を探す。より良い人間関係をつくれるよう、自分を高め続ける。
 たかがカフェ、されどカフェ。人々の深い悩みに実際は添うことなどできない。
 ただ、少しでも楽しい時間を過ごし「快の共有」ができればいいと願う。思わず笑みがこぼれるような料理を提供し、共に時を重ねていけたら私はうれしい。
(國吉真寿美(くによしますみ)夜カフェ「rat&sheep」経営者)