コラム「南風」 出会い


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 心躍らせ、高校入学した私には挑戦してみたいことがあった。運動系の部活動に入り、思いっきり体を動かすことである。小中と陸上の100メートルと幅跳びをやっていたこともあり、とりわけ私が希望するのは、陸上部。100メートルでは中体連の県大会で2位となり九州大会に出場したことがあったので、まず陸上部を探した。しかしその当時、浦添高校には陸上部がなかったのである。

 希望する部活がなく落胆したが、部活に入り心身ともに強くなりたいという目標を持っていた私は、陸上部以外にどんな部活が自分に合うのか模索した。そんな時、突然私の脳裏にある光景が浮かんだ。大学生の兄が夏休みで帰省し、「空手」の練習を家の中庭で行っていた。当時中学生だった私が、練習風景を何げなく見ていると、本気とも冗談とも受け取れるような口調で「あずさ、お前も空手をやってみたら。ひょっとしたら日本一になれるかもしれないよ!」と言ったのを思い出した。もちろんその言葉を笑って流したのであるが、部活選びに悩んでいた私には、兄の言葉が進むべき糸口を示してくれたかのように感じ、はやる気持ちを抑えながら武道場へと向かった。
 武道場には張りつめた空気の中、緊張した面持ちの新1年生が数人。壁には「全国制覇」のスローガンが高々と掲げられ、60人余りの先輩方が稽古に励んでいた。風を斬る突きや蹴り、技の一つ一つに気迫がみなぎり勇まく、凛(りん)とした立ち居振る舞いに心奪われ、私は入部を即、決断した。入部後に知るのだが顧問の先生は、世界空手道選手権大会を7連覇した「佐久本嗣男先生」だった。スキンヘッドで眼光鋭く、並々ならぬオーラを放っていた人物こそが、今後の人生に多大なる影響を与えることとなる「師」との出会いであった。
(豊見城あずさ、劉衛流あずさ龍鳳館館主)