コラム「南風」 たぶん恐るべし「ボーカロイド」


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 「ボーカロイド」をご存知だろうか? 音声合成技術によって、音符と歌詞を入力すれば、入力したメロディーに合わせて、入力した歌詞で歌声がスピーカーから流れてくる仕組みになっている(時に、人間の限界を超える難しいメロディーも完全に再現してみせる)。

 実在する人の声を元にした音源を使用しているので、本物の人間が歌っていると勘違いする人もいる。
 一般的には略称で「ボカロ」と呼ばれ、そのなかでも「初音ミク」というボーカロイドは、特に有名だ。近い将来、この「初音ミク」からインスパイアされたキラキラネームを持つ赤ちゃんに会える可能性は非常に高い。はね上がった消費税率よりも確実に高い。そのぐらい若者を中心に確実に浸透してきている。
 しかしながら、この現象、正直喜べない。というのも、この「ボーカロイド」、ナレーションを仕事としているナレーターにとって、大きな脅威であるような気がするからだ。ボーカロイドには、生声のニュアンスにまだ及ばない部分が多々あるとはいえ、技術の進歩は日進月歩、孫の成長のように速い(当方、孫はいない)。
 ナレーターは「日本語アクセント辞典」を愛用している。標準語の正しいとされているアクセントが載っており、これに従って、無駄な抑揚を省いて読むと、いわゆる「ニュース読み」となる。
 なまりを省き、決まった法則で読めることが、素人とプロを分かつ条件の一つな訳だが、ボーカロイドにこの法則を覚えこませたらどうだろう? 届いた原稿を入力するだけで、かまずに標準語で、24時間365日読めるということになる。これからのナレーターは、「ボーカロイド」がまねできないような付加価値を身につける必要があるのかもしれない。
(知花悠介、ナレータータレント)