コラム「南風」 回想の旅へ


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 「思い出がどんどん消えるような感じだよ」と語るアルツハイマー病を発症した知人の医師の戸惑いの表情が、忘れられません。この記憶の変化については病気の場合は程度が強いものの、人間誰の脳においても絶えず起きているようです。

 何かを覚えこんだときには、まず大脳の側頭葉の「海馬(かいば)」という場所にタンパク質である「記憶物質」が発生し、印象の強い出来事や日を変えて思い返した内容は前頭葉などまで記憶物質が広がるため忘れにくい思い出に変わります。
 認知症ではその記憶物質が早く壊れるのです。健康な脳の持ち主でも、思い出したくないことや都合の悪いことは合理化され加工されたり、あるいは抑圧されて記憶の倉庫から失われてしまいます。
 私には中学のころから、数年間日記を書き続ける時期と白紙の時期が交互に現れるようになりました。脳と心が大きく変わり始めた時期なのか、心が揺さぶられる体験がきっかけで記憶を失いたくないという意思が続いているだけなのかよくわかりません。
 2006年12月15日金曜日から現在まで7年半の間、日記が続いています。あの日は名護市の宮里病院の忘年会があり、沖縄市の沖縄リハビリテーションセンター病院のカンファレンスを終えてから向かいました。泊まる予定のホテルの駐車場内をチェックインするため走りだしたのですが雨上がりのアスファルトの上をすべり左膝を骨折してしまったのです。
 生まれて初めて受けた手術と長期の入院は患者の立場から医療を見る貴重な体験になりました。
 この「南風」では忘れ難き記憶をたどる回想の旅をしながら、最近継承した東南植物楽園など沖縄観光の未来や岐路に立つ沖縄が歩むべき道について考える機会にしたいと思います。
(宮里好一、タピックグループ代表)