コラム「南風」 失敗談は私の宝物


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 1年以上前、NHK沖縄放送局のキャスターとしてテレビの仕事をしていましたが思い返してみてもすぐに思い浮かぶのは失敗談です。

 マイクを付けずに出演しようとしたり、料理の味見をしたらたくさん頬張りすぎて番組のエンディングまでモグモグしていたりするのはごく普通のレベル。中でも印象に残っているのは、新人時代にとある漁港で水揚げ真っ盛りを迎えたある海産物の中継の時でした。
 魚は天候によって揚がるかどうか分からないので、紹介したい魚が当日水揚げされなかったとしても「きょうは揚がらなかったのでこちらにあらかじめ用意していただきました」と冷凍しているものを紹介すれば大丈夫ということになりました。
 しかしロケの前日、漁港の方から電話があり「あしたは魚が揚がらないはずだし、あの冷凍しているものも全部お客さんに売ったさ~」という衝撃的な一言。ひどい!と思った矢先に、その方から「だって、テレビを見てお客さんが来てもその品物がなかったら意味がないでしょ」と言われてしまいました。こうして次の日に迫った中継はあっけなくボツになってしまったのです。
 でも今になって考えると、新人の時の私は新しいもの珍しいものを紹介することにとらわれて、見た人が実際にそこに足を運んで、見たり味わったりしたらどうなるかということまで考えていませんでした。
 幸いにも当時の上司に違う話題を提供してもらい、翌日の中継は事なきを得たのですが、仕事の失敗や苦労は、その時は生きた心地がしなくても何か大切なことを気付かせてくれます。そして時間が経(た)ってしまえば懐かしい笑い話。わたしにとっては同僚とその話をするたびに当時にタイムスリップできる宝物です。
(山田真理子、フリーアナウンサー)