コラム「南風」 転機


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 斎藤公子先生の保育園を初めて訪れた時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
 まず3千坪というその敷地の広大さに呆然(ぼうぜん)とした。斎藤先生はその著書で「水や太陽、土、虫や動物、広い空間と仲間、これは人間の子どもを人間として発達させる最初の、そして最も大切な条件である。水や泥と遊び、虫をつかまえ、動物を世話し、野の花をつんで感動し、青空の高さを知り、雲の動きを見て空想し、友だちとけんかをし、仲直りをし、テレビからではなく先生からいろいろな生の話をきいて育つこと、はだしで踏むやわらかい土の感触…」。と書いているが、まさにその通りの保育園だった。

 圧巻だったのはリズム遊びだった。真冬の2月だというのに、半袖半ズボンの年長児たちが、ピアノに合わせてなわとびでホールを一周していた。出るタイミングは自分で判断する。途中で縄にかかると戻って初めからやり直す。そこでは大勢の見ている中で転んでも、泣き崩れて気持ちの切り替えができない子など一人もいなかった。どの子もつまずいたら自分の意思で何度でもやり直す。その粘り強さ、意欲、集中力。その次の側転も、手の指先から足の指先まで、全身をしなやかにコントロールしながらホールを一周した。カモシカのような敏捷(びんしょう)な動き、チョウのような優美な舞。次々と繰り広げられる子どもたちの姿に、私はすっかり魅了されてしまった。
 この子たちはきっと、どこへ行っても、どんな時も、なんとしても生き抜くに違いない。無限の可能性に満ちあふれた子どもたちを目の当たりにして、私は心の底が震えるほどの感動を覚えた。そして思った。私の保育園の子どもたちも、このようにたくましく、しなやかで、凛(りん)とした子どもに育てたい、と。
 私の人生が大きく変わった瞬間だった。
(仲原りつ子、あおぞら保育園理事長・園長)