コラム「南風」 認知症と排せつ介助


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 在宅介護者に重くのしかかる介護負担に失禁がある。特に、ろう便(便いじり)は、介護者を悩ませ苦しめる。いわゆる糞(ふん)闘介護である。私の母も、すっかり寝たきりになって失禁が日常的な行動になったので、紙おむつを使用することになった。介護日誌から紹介する。

 「今日から紙おむつを使用する。…母も『安かったから、ねーさんが買ってきた』と喜んでいる。私も、そろそろおむつを使用するかと妻と話し合っていたが、いざおむつ使用となると複雑な気持ちになる。夜、仕事から帰って様子を見に行く。母に『これはおシッコをしても、すぐ乾くから良いよ』と話すと『イャーン(あなたも)使ってみたんだね』と答える。母は全てをお見通しなのだ。母に一本取られてしまった。私も一晩、紙おむつを試(使)用する羽目になる。母におむつを使うことで、どうなるものかと心配していたが、抵抗を示さない。(悲しいことではあるが、母のやさしさに甘えさせてもらう)」
 認知症を速めてしまうおむつ使用を決断せざるを得ない手抜き介護が、現実の私たちの介護スタイルであった。介護は、きれい事では済まされない息の長い労働である。10人の要介護者がいたら、それぞれの家族の事情に合わせて、10通りの介護スタイルがある。
 また、母は寝たきりになってから、食が細いこともあってか、なかなか便が出なかった。もともと便秘症ぎみではあったが、長い時は1週間近く出ない。私たち家族の合言葉は、「ばあちゃん、うんこが出た?」であった。2、3日で便が出ると、家族みんな、今日、ばあちゃんのうんこが出た!と喜んだ。特に、幼い孫たちは、ばぁちゃんのうんちがでた!と喜びはしゃいでいた。他人から見ると、実に不思議な家族に映ったことだろう。これも介護家族の日常的な光景である。
(神里博武、社会福祉法人豊友会理事長)