コラム「南風」 チキンと世界平和


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 明日死ぬとしたら最後に何が食べたい? 全人類共通の大いなるこの質問。答えは人それぞれだと思うが、私が最後の晩餐(さん)にしたいもの。それは言わずもがな、自分が作っているチキンだ。ほのかに感じる酢の酸味と鶏肉の旨(うま)味、粗く刻んだニンニクの食感。最後の一口はもったいなくて飲み込めないかもしれない。

 しかし最後の晩餐、何を食べるか以上に大事なのは「誰と食べるか」。私はうちのチキンを、私を取り巻くみんなと食べたい。
 家族や恋人、友人、師匠、お客さま。近所の小学生も取引先の方も、みんなでチキンを囲んでにぎやかに食べるのだ。大好きな人に囲まれてわが身をささげたチキンを食べる。人生の総集編にふさわしい食卓じゃないか。ブエノチキンが不定期で開催しているイベント「ブエノナイト」。ブエノチキンを食べてお酒を飲んでライブで踊る、それだけのパーティー。参加者は父コウエイと母サチコ、親戚、友だち、お客さま。社長から学生から主婦までいろんな人がいて、年齢層も上は70代から赤ちゃんまでと幅広い。
 これがまさに、私の理想とする最後の晩餐。肩書も老いも若きも関係なく、いろんな人が同じ場にいて一緒にチキンを食べ笑い踊っている。それはとてつもなく幸せな光景で、イベントを開くたび酔った頭で世界平和ってこういうことじゃないかと考える。憎しみあうのに忙しい世の中だが、武器を向ける代わりに私は肉を差し出したい。すべての武器をチキンに!
 80歳、90歳になった私の最後の晩餐、ブエノナイト。そこには沖縄、日本、アメリカ、ロシア、ウクライナ、韓国…いろんな国の人が同席できるような時代であればいい。未来の平和を願いながら今日もお客さまの晩餐のためにチキンと、いや、キチンとチキンを焼いている。
(幸喜ブエコ朝子、「ブエノチキン浦添」2代目)