コラム「南風」 子どもの絵


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 1歳を過ぎた子にクレヨンを持たせると、トントンと紙をたたくように描く。やがて左右往復の弧を描くようになり、それがグルグル丸になり、自分の意思で閉じた丸を描くまでに1年かかる。

3歳前後にはその丸に目がつき口が加わり、その顔から直接手や足が出る。これを頭足人(とうそくじん)と呼び、ここまでの絵の発達は世界共通だ。この頭足人に胴体や髪の毛を描くことを教えてしまうと、子どもの創造力はそこで止まってしまい同じような絵しか描けなくなる。子ども自身が手や足は胴体から出るのを知るのに2年、世界に地や空があるのに気づいて地平線を描くのにさらに半年が必要だからだ。それまでは気長に待ってあげた方が良い。
 子どもの絵は時として心や身体の不調を訴えていることがある。画面に塗りつぶしがあったり、車ばかり描いて人間を描かなかったり、手足のない人間を描いたり…。そんな時担任はなぜそういう絵を描くのかを保護者と真剣に話しあう。早期教育で無理をさせていないか、指示・命令が多くはないか…。そして子どもが発しているサインを読みとり原因を取り除くと、不思議なことにまた楽しい日々を描く絵に変わる。
 孫が2歳の時に紙の四隅に塗りつぶしが出たことがある。これは排泄(はいせつ)の躾(しつけ)が厳しい時に出るサインだ。おしっこを我慢しながら積み木で遊んでいる孫と「おしっこじゃない?」「イヤ、ない」。そんなやりとりを何日か繰り返した。そんなに口煩(うるさ)く言ったつもりはない。が、孫にとっては不快だったのだ。以後そっとしていたら、塗りつぶしはなくなった。
 子どもは体験を土台にして表現する。その想いを受けとめ共感することが大切だ。だから子どもが絵を描いたら、心から喜んで褒めてあげよう。
 「わぁ素敵!」「なんて素晴らしい!」と。
(仲原りつ子、あおぞら保育園理事長・園長)