コラム「南風」 認知症サバイバーの時代


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 認知症は以前、痴呆(ほう)と呼ばれていたが、2005年からは認知症と呼ばれるようになった。しかし、私たちの認知症に対する認識はほとんど変わっておらず、今日でも、「恍惚(こうこつ)の人」という捉え方が多くの国民の意識なのである。

 がんは、今日でも死の病として恐れられているが、今、がん患者の中には、単に生存者としてではなく、「がんサバイバー」として自分らしく生き、充実した人生を送っている人たちが増えているという。また、命尽きるまで、生活者、サバイバーとして共に生き抜くことができるように、法制度も整備されてきた。
 認知症800万人時代においては、認知症になっても、尊厳をもって人生を最後まで精いっぱい生きることのできる社会が求められている。いわゆる、認知症サバイバーの時代である。
 認知症サバイバーとして国際的に活躍している人に、元オーストラリア政府高官のクリスティーン・ブライデンさんがいる。46歳の若さで認知症を発症したが、国際アルツハイマー病協会の理事などを務め、夫のポールさんの支援のもと精力的に講演活動をして人々に大きな影響を与えた。
 また、わが国でも「私、バリバリの認知症です」と講演活動をしておられる太田正博さんなど、偏狭的な認知症観を変える社会的活動を行っている認知症サバイバーたちが出始めている。このような認知症当事者の動きや介護、医療の進歩は、これまで将来が閉ざされ、展望を持てなかった認知症の人たちや家族らに希望と勇気を与えている。
 今後、認知症サバイバーを応援するための法制度の整備をはじめ、そのための社会的取り組みがあれば、認知症本人や家族も安心して暮らせるだろう。そして、そのような社会の実現に向けては、私たち一人一人の意識や行動のありようが問われていると思うのである。
(神里博武、社会福祉法人豊友会理事長)