コラム「南風」 チキンと売らない


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 「このチキン、毎日食べても飽きませんよね」「飽きますよ~」「えっ、飽きませんよ!」「いえいえ、飽きると思いますよ~」
 ある日のお客さまと母サチコの会話。飽きないと言っているのがお客さまで、飽きると言っているのが母サチコだ。

 私たち家族が販売しているチキンの丸焼きは2時間かけてじっくり焼くので余分な脂が落ちている。そのため飽きずに食べられると言って定期的に来てくださる方が多く、中には10年間、毎週必ず買いに来る方も。それでも飽きないとの褒め言葉に対し、かたくなに「飽きる」と言い張る母サチコ。チキンを売りたいのか売りたくないのか、お客さまは大変困惑したことだろう。そんな母の言葉に、飽きさせたくないという職人気質を垣間見る。
 「1羽ください」「えっ、お2人で1羽は多すぎです!」「でも食べられそうですが…」「いえいえ、半羽で十分ですよ~!」
 ある日のお客さまと母サチコの会話。うちのチキンは酢に漬け込んでいるためさっぱりした味わいで、小柄な私でも1人で半羽ぺろりと食べられる。だが、多めに買っていく方に対して多すぎると言い張る母サチコ。「半羽でいいんじゃありませんか?」買う数を減らされるなんてお客さまは大変困惑したことだろう。そんな母の言葉に、ちょうどいい分だけ食べてほしいという職人気質(かたぎ)を垣間見る。一品でも多く売り、一円でも高く売り上げる。そのために努力するのが商売の常だ。母サチコの引き算の姿勢は、そんな商売の常識を根底から覆す。
 一説によると企業の30年生存率は0・025%。両親がコツコツ続けた店は来年で33年目。一体どんな秘訣(ひけつ)があるのか、母サチコの引き算の姿勢をチキンと、いや、キチンと学びながら、2代目としてさらに30年コツコツ歴史を積み重ねたい。
(幸喜ブエコ朝子、「ブエノチキン浦添」2代目)