コラム「南風」 企業で働くということ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ブラック企業という言葉を最近よく耳にします。弁護士として労働者の方の立場から不当解雇や過労死、パワハラの事件などを担当してきましたので、ブラック企業をめぐる報道や議論には強い関心を持っています。

 しかし、それだけでなく、私個人の原体験から、ブラック企業の問題に自然と興味を持ってしまう面もあります。
 私は弁護士になる前に5年半ほど一般企業で働いていました。その企業は時間外労働時間がとても長いことで有名な企業でした。私はその企業で営業職として働いていましたが、一番ひどいときには、朝6時からアメリカの得意先とのテレビ会議に参加し、それから日中ずっと工場や得意先企業とメールや電話でのやり取りを行い、夜12時すぎにようやく帰宅するという生活をしていました。
 そのときには食事休憩を取っている最中にも台湾やシンガポールの得意先から私の携帯電話に問い合わせの電話がしょっちゅうかかってきていました。こう書くと、何だか世界をまたにかけるカッコイイビジネスマンのようですが、実態はそんなものではありませんでした。私はもう少しで精神的に参ってしまうところでした。
 もちろん、その企業で働いたことによって学んだことはたくさんありますし、精神的に強くなることもできました。また、その企業での同僚とは今でも交流があります。がしかし、あの労働環境に二度と戻りたくはありません。
 ブラック企業の問題をめぐる報道や議論を見ると、あのときの自分をいや応なく思い出してしまいます。企業で働くということは、自分を成長させてくれる面もあるとともに、時として負の側面もあるということを、自営業者の弁護士となった今、しみじみと噛(か)みしめています。
(大井琢、弁護士)