コラム「南風」 保育の心


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 まだ延長保育制度のない時代、県外の園長研修会で聞いた話が忘れられない。
 その人は園長になる前は小学校の教師だった。夫婦共働きで核家族、育児休業の取得もままならず、産休明けから預かってくれる保育園をやっと見つけ教師を続けた。が、仕事が長びき、どうしても時間通りに帰れない。園が閉まる午後6時に間に合わせるため、綱渡りのような日々だった。日暮れが早い冬の夜、ぎりぎりで園に駆けつけると、園舎の電気はほとんど消え、一部屋だけ灯(あか)りがついた玄関脇の部屋で、わが子が一人ポツンとテレビを見ている。(すみません)と保育者に詫(わ)び、「ごめんね」とわが子を抱きしめる。

 ある時その子が言った。「お母さん、お馬さんが走るみたいにパッカパッカと足音たてて帰ってきてよ。ボク保育園の床に耳をつけて待っているから。そしたらお母さんが来るのが遠くからでも分かるでしょう」それを聞いてその人は、わが子がそんなにも寂しい思いをしていたのかと、胸が張り裂けるようだった。
 そんなある日、その日も迎えが遅くなり、あせって園に駆けつけた。すると、わが子が保育士と二人向かいあってキャッキャと楽しそうに遊んでいる。いつもはしょんぼりと待ちわび、母親を見つけるなり飛び付いてくるわが子が(あれ、お母さんいつの間に帰って来たの)という表情でニコニコと母親を見た。その笑顔を見てどんなにホッとしたことか。その時その人は思った。(こんなにもわが子を大事にしてくれた。なんてありがたい。私はこの保母さんのためなら何だってやろう…)と。
 私は時折、この話を職員にする。
 国は働く親支援と併せてそれを支える保育士支援にも、もっと力を入れてほしい。かけがえのない生命を預かり、明日を拓(ひら)く子らを育てる尊い仕事だから。
(仲原りつ子、あおぞら保育園理事長・園長)