笑顔のファンタジー 寝相アート


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 赤ちゃんがスヤスヤ眠りについたら、「寝相アート」の始まりだ。母親は家の中をぐるりと見渡した後、タオルやおもちゃ、洋服などを素早く取り出す。知恵を絞り、それらを熟睡するわが子の回りにそーっと配置。こうして現れるのは、まるで絵本の1ページのような空想的な光景。母親は自慢の「アート」を写真に撮り、ブログやフェイスブックで披露し、反響を楽しむ。

 「寝相アート」とは、赤ちゃんの寝相を演出した写真のこと。作成の際には「安眠を邪魔しない」「寝相は変えない」「世界観はハッピーに」などのルールがある。今では専門の本も出版されるほどの人気だ。

ママのストレス発散法
 「『寝相アート』は、母親たちが考えたストレス発散法」。そう笑顔で話すのは仲村優香さん(23)=宜野湾市。昨年5月に長女そらんちゃんを出産した。初めての子育て。時間と気持ちに余裕はないが、朝のわずかな時間を利用して「寝相アート」に取り組む。
 「子どもと母親の息がぴったり合った時じゃないとできない。写真館では絶対撮れない写真」。「寝相アート」の魅力について語る仲村さん。写真をインターネットで公開すると「かわいい」「いいね」とたくさんのコメントが寄せられ、子育ての励みになる。「母親だって、たまには褒められたい」。そんな仲村さんの願いを「寝相アート」はかなえてくれる。

わが子の「今」
 「子育てに余裕が出てきたから『寝相アート』ができるのかな」。砂川春佳さん(33)=浦添市=は、次男楓ちゃん(1)を抱きながら話す。長男葵ちゃん(6)を出産した時は「孤独だった」と振り返る。「外に出ることもなく『ママ友』もいない。子どもが寝たらやっと自分の時間が持てるので、絶対に起こしたくなかった」
 しかし、楓ちゃんが生まれた頃には余裕が出てきた。制作中に楓ちゃんの寝相が変わり、構図を一から練り直すこともあるが「人生予想外のことが起こったら、人は方向転換するでしょう。『寝相アート』もそれと一緒」と笑い飛ばす。
 砂川さんは今、日々成長するわが子の「今」を「寝相アート」として記録する。「(楓ちゃんが)大きくなったら見せたい。結婚式でこの写真を流してほしいな」と夢は膨らむ。
 子どもの寝相を生かし、母親たちが表現するファンタジーの世界。そこには日々子育てに奮闘する母親たちの思いがあふれている。
(文・仲宗根祐希)
(写真・金良孝矢)
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子育ての励みに/保志門るり江さん(NPOたいようのえくぼ代表)
 「寝相アート」は子どもがいるから成立します。母親と赤ちゃんの2人で一つのものを完成させるのです。また、子どもが小さい時にしかできないというのも「寝相アート」の醍醐味(だいごみ)です。「寝相アート」に取り組む母親たちは、子育てを楽しんでいると感じます。自分の「寝相アート」をフェイスブックやブログで発表することで「かわいい」と多くの反響があるようです。沖縄の母親たちはフルタイムで働きながら、子育てや家事は自分で全部やらなければいけないと思っている人が多い。そんな母親たちにとって、「かわいい」という声を聞くだけでも、子育ての相当な励みになります。

砂川春佳さんの手にかかると、お昼寝中の楓ちゃんが綱渡りをするサーカスの出演者に。作品名は「サーカス」=浦添市仲間
砂川春佳さんは自慢の寝相アートを写真に収め、「フェイスブック」などに投稿する。反響も楽しみの一つ
洗濯ネットやマジックペンなどを利用し、そらんちゃんが寝ている5分間で作り上げた仲村優香さんの寝相アート「虫採り」=宜野湾市宜野湾
「身の回りにあるものを利用するのが『寝相アート』のステータス」と語る仲村優香さん