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米日覇権維持の欲望 蹂躙される市民の命、平和 <全国に広がる戦争準備>上 高井弘之


米日覇権維持の欲望 蹂躙される市民の命、平和 <全国に広がる戦争準備>上 高井弘之 佐賀空港の前で自衛隊駐屯地の造成工事に反対する人たち=2023年6月12日午前8時30分、佐賀市
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 沖縄・奄美を中心に始められた「対中戦争態勢」構築は、いま九州を中心に西日本に拡大されている。陸自・大分分屯地では大型弾薬庫9棟の建設に向けた工事が進み、陸自・湯布院駐屯地には「対艦ミサイル連隊」が今年度中に配備される。宮崎県えびの市の陸自駐屯地や鹿児島県さつま町にも弾薬庫の建設が計画され、熊本の陸自・健軍駐屯地にはすでに「対艦ミサイル連隊」が配備されている。

 民間空港の佐賀空港には来年オスプレイを配備する予定で、隣で新たな陸自駐屯地建設工事が進行中だ。そして広島県呉市の海自基地には、沖縄に部隊や軍事物資を輸送するための新部隊が来年3月に設置予定で、兵器の整備・生産機能も有する一大軍事拠点建設構想もある。

 これら沖縄から全国に拡大する軍事態勢は、誰のための、何のためのものか。

「歴史の転換点」

 岸田首相は4月の米議会での演説で、「米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています」と語った。そして彼は、「挑戦者」としてグローバルサウス諸国や中国・朝鮮などの名を挙げた。これらはかつて日欧米が侵略・植民地支配した国々である。

 彼は、この現在の状況を「歴史の転換点」とした。たしかに、いま世界は「近代500年の歴史」の大転換期にある。この500年間の世界は、西欧によるその外部への侵略、支配によって形成されて来たものだ。特に1800年代半ばから1900年代にかけて世界各地を侵略し植民地支配を行った英仏独伊露米日などの国々は帝国主義列強と呼ばれた。これら諸国による世界支配の構造は、その覇者をイギリスからアメリカに交代させながら第二次世界大戦後も基本的に変わらなかった。

 しかし現在、この構造がその根本から大きく転換している。第二次世界大戦後も世界経済を支配してきた帝国主義諸国―「先進国」はその経済的地位を大きく落とし、中国・インド・インドネシア・ブラジルなどに追い抜かれつつある。

 日米欧など西側諸国の利益と支配のための「国際秩序」を批判し、公正・平等・平和な国際秩序を求めるグローバルサウスの国々がとても増えてきている。米国を筆頭とする「西側中心国」の支持・支援のもと行われているイスラエルによるガザへの攻撃・虐殺を止めるために精力的に動いているのも、中国を含むグローバルサウスの国々である。

西側中心の秩序

 世界を自らの利益と欲望に合わせて秩序化して来た帝国主義諸国はその「秩序」を維持するために、いま必死である。

 西側先進国はいまなお帝国主義国であって、そこから脱した位置・姿勢に在るわけではない。「人道・人権・民主」などの美名を掲げながら今世紀に行われたアフガニスタン・イラク・リビアに対する戦争は、実際は、自らが優位に立つ「秩序」に従わない国・政権を潰(つぶ)すためのものだった。それは、一方的な先制攻撃や大量殺戮(さつりく)など国際法や人権に明白に反するもので、そこには、彼らが言う「法の支配」も「リベラルな国際秩序」への姿勢も全く存在していなかった。

 岸田ら西側首脳が発する中国などを指しての、「一方的な現状変更は許さない」という言葉の意味も、自分たち「西側」が中心であるこれまでの国際秩序の「現状」を変更することは許さないということだ。いま日米欧が行っている中国包囲網の構築も、中国を弱体化させて、彼らが支配する「秩序」を維持するためのものである。中国の脅威が声高に叫ばれているが、相手に脅威を与える軍事演習は、中国軍が米国の近くで行っているのではなく、この包囲網構築のために日米欧の軍隊が中国の近くで行っていることを確認しておきたい。

 岸田は演説で「共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできています/日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています/日本は国家安全保障戦略を改定しました」と宣言し、敵基地攻撃能力の保有についても語った。

 西側中心の秩序の維持が困難になっているいま、日本は軍事力を出して、米国と共にその秩序維持の「任務に従事」するというのである。つまり、いま沖縄・西日本で構築されている軍事態勢は、覇権の維持を執拗(しつよう)に目指す米日国家の欲望がつくり出しているものである。その「私利」のために、私たち市民の命が、平和が、蹂躙(じゅうりん)されようとしている。

 近代日本国家は150年前の成立以来、独自に、あるいは欧米列強と共に、東アジアを軍事的・経済的に侵略しその平和を奪って来た。欧米と共に、東アジアの国々・人々に対してそのようにしたのは、東アジアで日本だけである。

 79年前の「沖縄戦」は、このような日本国家による中国・アジアへの侵略戦争の結果として起こされた。いま私たちが強く危惧している「沖縄の戦場化」も、日米の中国への攻撃・戦争によって初めて強いられることになるものだ。

 つまり現在の対中戦争態勢の構築は、欧米と共に同じアジアの国々を侵略するという近代日本国家が歩んで来た軌道の上にあるものだ。したがって、いまこそ私たちは近代日本150年の歴史を総括し、日本国家のアジアへの姿勢を転換させなければならない。日本を「中国包囲網」から抜けさせ、今度こそ、東アジアでの戦争を阻止し平和を実現する側の国へと変えなければならない。そうして、国家による戦争を、私たち市民・民衆の力で必ず止めたい。

高井 弘之 たかい・ひろゆき

 愛媛県今治市在住。「ノーモア沖縄戦 えひめの会」運営委員。当会でリーフレット「本当に『中国は攻撃して来る』のだろうか?」を発行。著書に「日米の『対中国戦争態勢』とは何か―東アジアでの戦争を止めるために―」など。

 台湾有事NO!「沖縄・九州・西日本から全国に広がる戦争準備」報告意見交換会は8月11日(日)午後2時から沖縄市民会館中ホールで開かれる。石垣、うるま、大分、広島、京都から報告。戦争準備を止める「共同行動」を話し合う。資料代500円。問い合わせは電話090(2716)6686、ノーモア沖縄戦の会事務局。