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【寄稿】松原忠之、下地イサム「ミヤコ、みやこ、宮古!」を観て 小浜司 世界の隅々に届く可能性


【寄稿】松原忠之、下地イサム「ミヤコ、みやこ、宮古!」を観て 小浜司 世界の隅々に届く可能性 下地イサム(左)と共演する松原忠之=7月21日、那覇市のライブハウスOutput(喜瀬守昭撮影)
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 「トーガニあやぐ」という宮古民謡がある。宮古の「君が代」ともいわれ、文字通り宮古民謡を代表する一曲である。旋律のみならず秀逸な歌詞がまた多数。

 ♪春ぬ梯梧ぬ花ぬ如ん宮古ぬあやぐや すうに島糸音ぬ あていかぎりゃよ 親国がみまい下島がみまい とうゆましみゅでいよ(訳:春の梯梧の真紅の花のような宮古のあやぐは絹糸のように美しい音色 本国から世界の小さい島々までとどろき知れ渡ることだろう)

 現代的に解釈すると、宮古のあやぐ=歌のしらべの普遍的美しさを堂々と世界へ宣言したものと言ってよい。しかし、この「あやぐ」の生まれた時代は「親国」も「下島」も宮古諸島を指すもので決して地球の裏側までは意味していない。それでも、その荘厳(そうごん)ともいえる旋律は今もって、成層圏を超えて宇宙へ届くような感動を与えてくれる。宮古民謡にはそんな要素が内在しているのだ。

 先日(7月21日)那覇市のライブハウスOutputにて行われた、松原忠之、下地イサム、ライブ「ミヤコ、みやこ、宮古!」は、まさに「トーガニあやぐ」を思わすような、実に不思議な感動を醸し出す特異な空間であった。松原忠之のセカンドアルバム「美ぎ宮古のあやぐ」のCD発売記念として催されたジョイントコンサートで、今回のレコーディングに下地イサムが特別参加していることで実現した。

 松原忠之がファーストアルバム「清ら海、美ら島~あやぐ、宮古のうた」をリリースして3年になる。その間筆者は、数々のステージで歌いこなしてきた松原忠之を見てきた。彼の歌に対する姿勢と意欲は日々進化しながら成長していき、それが目に見える形となって新作がリリースされたことは実にうれしい限り。

 さてステージである。第一部は松原の宮古民謡、第二部は下地の弾き語り、そして第三部にジョイントという構成。感想を一言で言うと、「宮古」は強烈であった。下地イサム(54)と松原忠之(32)。世代もスタイルも違う2人が展開する宮古語(ミャークフツ)と宮古ワールド。アルバム収録のジョイント曲を披露した後、下地は宮古民謡「なりやまあやぐ」を、松原は下地のオリジナル曲「我んたが生まり島」を、互いに刺激し合いながら2人で歌ったシーンに観客は涙して喜んだ。

 筆者は、ゴダールや高嶺剛監督の映画を見ているような、まるで異世界に飛び込んだような気がしてうれしくなった。宮古音楽の、いや、琉球音楽の独自性が世界の隅々まで届く可能性を改めて感じたライブだった。

 (島唄解説人)