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軍民分離原則に逆行 住宅地に弾薬庫増設 <全国に広がる戦争準備>中 池田年宏


軍民分離原則に逆行 住宅地に弾薬庫増設 <全国に広がる戦争準備>中 池田年宏 陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊発足式で公開された12式地対艦誘導弾の発射機=3月30日、うるま市の陸自勝連分屯地
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 1945年の今日、アメリカが投下した一発の原子爆弾は、その年の末までに即死を含め14万人の市民を殺した。ジェノサイドである。ただ、戦争が持つのは被害の側面だけではない。日本は3000万人ともいわれるアジアの人々の命を奪い、数々の加害行為も行った。戦前、戦中、軍国教育がなされ、戦場で心を病み、家族を失い、生活を奪われた市民は、戦争を明確に否定した日本国憲法を心から歓迎した。しかし今、その憲法は踏みにじられ、全国、特に九州大分は戦争準備の中心的な役割を担わされようとしている。

 集団的自衛権の行使容認や安保三文書によって、自衛隊はもはや専守防衛のための組織ではなく、米国の先兵としての攻撃型軍隊となっている。現在、陸上自衛隊と米軍による共同訓練「レゾリュート・ドラゴン24」が過去最大規模で行われている。米日合わせて約9000人、その内、実に4000人が陸上自衛隊日出生台演習場での訓練に参加している。オスプレイ10機の飛行訓練も含まれる。

 昨年は、大分と沖縄・鹿児島を結ぶ輸送訓練が行われた。今回は九州沖縄を統括するため湯布院駐屯地に配備された第二特科団の指示により、九州沖縄のミサイル連隊が発射操作をする。うるま市勝連の部隊も含まれる。これには、先月27日に日出生台演習場ゲート前で訓練の中止を求める抗議集会を行った。同日、うるま市勝連でも同様の集会が行われたと聞いている。思いを同じくする市民がそれぞれの場所で行動を起こしている。

軍事優先

 陸上自衛隊大分分屯地(敷戸弾薬庫)で大型弾薬庫9棟の建設が始まった。ここは周辺に大分大学や小中学校、保育園、幼稚園、病院、介護施設、商業施設などがあり、周囲3キロに4万人が生活する住宅密集地だ。JR大分駅、大分県庁や市役所までわずか6キロ、半径10キロの範囲には大分市の大部分が入る。

 戦争の際の民間人被害を避けるため、国際人道法は弾薬庫などの軍事目標を人口密集地やその周辺に設けないようにする軍民分離を締約国に求めている。しかし、防衛省は、攻撃対象になるかどうかは有事になってからでなければわからないと、軍民分離原則の趣旨に逆行する説明を続けている。

 さらに政府は、琉球弧の島々に住む市民の避難先として、九州・山口各県への協力を要請している。しかし、住民を守るとして進めている南西諸島の軍事要塞化・ミサイル配備と避難は矛盾する。住民の安全を守るのは、ミサイルではなく、軍民分離・非武装だ。

 防衛省が依拠する火薬類取締法は、火薬貯蔵量40トンの場合、保安距離を550メートル以上と定めている。敷戸弾薬庫の場合、保安距離が守られているとは到底思えない。

 さらに、防衛装備庁による通達によると、弾薬庫が火災を起こした場合、「爆薬等が爆発している場合には、自衛隊員や消防隊員であっても600メートル以内に近づいてはならない」。しかし、その範囲にはすでに多くの住民が生活している。ただでさえ危険なのに、この上ミサイル弾薬庫9棟もの増設など受け入れられるものではない。

 軍事優先体制づくりは大分だけにとどまらない。既存の施設を含め弾薬庫建設やミサイル部隊他新たな部隊に関しては、宮崎陸自えびの駐屯地の弾薬庫増設、鹿児島さつま町の弾薬庫建設を伴う自衛隊誘致問題、長崎佐世保や大分玖珠駐屯地の水陸機動部隊、長崎対馬駐屯地での電子戦部隊配備、熊本健軍駐屯地の対艦ミサイル連隊、福岡の空自築城基地での滑走路延長と米軍使用の日常化、宮崎の空自新田原基地でのF35B飛行隊配備などがある。

 また、民間施設の軍事使用についても、九州の長崎、福江、宮崎、北九州の各空港と博多港、近隣では、四国の高松、高知、須崎、宿毛の各港湾が平素から軍事に使用される「特定利用空港・港湾」に指定されている。佐賀では空港にオスプレイの配備が計画されており、隣接地にはあらたに大規模な陸自駐屯地の建設が行われている。大分空港の指定はないが、昨年の自衛隊統合演習において軍用機の発着訓練が行われた経緯もあり、指定如何(いかん)にかかわらず、軍事が優先される事態となっている。

対話と友好

 憲法はもとより、今ある平和の資源を生かし、さらに意義あるものにしていくべきだ。日中平和友好条約もある。大分市は1979年に武漢市と平和友好都市となり、平和のための活動を積み重ねてきている。また、湯布院は各国からの観光客を迎える温泉地でもある。戦争に加担する野蛮な保養地で良いはずがない。文化交流を行い、対話と友好を積み重ねていく努力と、戦争をしない叡智(えいち)を結集させ、今の流れを止めていきたい。

 戦争とは人間同士の殺し合いである。ミサイルや弾薬庫は命を生かすものではない。奪うものだ。そのための施設や訓練を許すわけにはいかない。沖縄では長年にわたり平和運動が続けられている。戦争に進む状況の下、今さらながらではあるが、沖縄・琉球弧での運動に学びながら、各地で進められる戦争体制づくりの情報を共有し、全国のつながりをつくっていきたい。8月には沖縄で、9月には広島で、そして12月には大分で、次々と全国共同行動が計画されている。私たちの行動こそが、次の世代に残す平和資源となる。

池田 年宏 いけだ・としひろ

 大分県中津市在住。中学校教職員。大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会運営委員。憲法・教育基本法改悪に反対する市民連絡会おおいた事務局。

 台湾有事NO!「沖縄・九州・西日本から全国に広がる戦争準備」報告意見交換会は8月11日(日)午後2時から沖縄市民会館中ホールで開かれる。石垣、うるま、大分、広島、京都から報告。戦争準備を止める「共同行動」を話し合う。資料代500円。問い合わせは電話090(2716)6686、ノーモア沖縄戦の会事務局。