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旧盆行事、直接のルーツは日本 県内全域が旧暦、仏教色は希薄<知って納得、沖縄の盆行事>上


旧盆行事、直接のルーツは日本 県内全域が旧暦、仏教色は希薄<知って納得、沖縄の盆行事>上 葉付きのショウガ(左端)は、盆の祖霊への供物をヤナムンに横取りされないために飾られる
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 日本本土とは異なり、独自の暦や風習にのっとって執り行われる沖縄の盆行事。「毎年、親族が集まりウークイをしているけど、どういう意味や目的があるのかはよく分からない…」「そもそもどうしてお盆に道ジュネーするの?」。今年は16~18日に行われるお盆(シチグヮチ)を前に、沖縄の盆行事に詳しい稲福政斉さんに、知っているようで意外と知らない沖縄の盆行事の由来や、押さえておきたいポイントなどについて教えてもらった。

 日本の盆 沖縄の盆

 盆は中国発祥の行事で、日本へは飛鳥時代に仏教とともに伝来したとされる。当初は仏事としてもっぱら寺院や宮中で営まれたが、時代が下るにつれ日本古来の祖霊信仰や秋の収穫儀礼などと結び付き、年中行事として庶民層にまで普及、定着をみたのは江戸期頃(ごろ)とされる。本島一帯では「シチグヮチ」、宮古では「ストゥガツ」、八重山では「ソーロン」などとよばれる沖縄の盆も、その儀礼や供物などからみて日本で年中行事として一般に広まった盆行事が直接のルーツであろうと考えられる。ただ、他県のような檀家制度(各家が必ずいずれかの寺院に信徒として所属する制度)が存在しなかったことなどを背景に、日本に比べ仏教色が希薄化した点は、沖縄の盆行事の大きな特徴である。

 旧暦(太陰太陽暦)を用いていた近代以前は、沖縄も他県も盆は旧暦7月の行事であったが、新暦(太陽暦)採用以降、日本には新暦の盆、月遅れ盆、旧盆の3パターンが生じ、地域により盆の日取りが分かれた。現在、全国的には月遅れ盆(新暦8月13日~16日)が主流で、県内全域が旧盆(旧暦7月13日~15、または16日)という地域は沖縄のみとなっている。

 盆の準備

 沖縄では盆の初日となる旧暦7月13日の日中までに仏壇の掃除を行い、供物を飾り付けて祖霊を迎える準備が整えられる。仏壇の掃除の際には花瓶や香炉などの道具類をはじめ、普段は容易に動かせない位牌も拭き清める。また、ウンケー(御迎え)に先立ち、祖霊を出迎える場所となる門や玄関周辺も普段以上に入念に掃除する。

 掃除が済むと仏壇に供物を飾り付ける。さまざまな種類の果物を供えることは盆行事の特徴の一つで、地域により多少異なるが、バナナやミカンをはじめ好みでナシやリンゴなども加え(3種類、5種類と奇数にすることが多い)、器に盛り合わせる。これとは別にパイナップルやスイカなどの大きな果物はガンシナとよばれる藁(わら)などで作った輪を敷いて仏壇に飾る。祖霊がグーサン(杖)にするという長いサトウキビはグーサンウージといい、仏壇の両側に立て掛けておく。また、盆の時期になると祖霊に紛れてこの世に現れるヤナムン(悪霊、餓鬼の類)に供物を横取りされるのを防ぐため、葉付きのショウガを飾る家庭もある【写真(1)】。これは、香りの強い植物は邪気を払うとの考え方に基づく一種の魔除けである。

 盆の期間中は祖霊の周りを明るく照らすことも重要とされ、仏壇の左右に提灯(ちょうちん)や灯籠(とうろう)を飾る。八重山地域では何対もの提灯を飾り付ける家庭が多く、盆の仏壇は他の地域に比べひときわ華やかである。また、あの世から長旅をしてこられる祖霊が手足を洗い清める道具としてソーローハージ(メドハギ)の葉を束ねて小さな箒(ほうき)を作り、水を入れた器に添えておく家庭もある。

 ウンケー

 13日は全ての準備を済ませた後、夕刻を待って祖霊を家庭に迎えるウンケーの儀礼を行う。ウンケーは辺りが暗くなりきらないうちに済ませるものとされるが、これは祖霊をお待たせしないようにとの心配りである。ウンケーの儀礼は家族揃(そろ)って行い、門前で主人や年長者が線香を供えたのち、全員で合掌する。その後、家の中に祖霊を招き入れるようにして仏間へ移動し、各自仏壇に線香を供えて改めて祖霊を拝する。

 13日の夕食はウンケージューシーとよばれるクファジューシー(炊き込みご飯)が定番で、汁物やウサチ(酢の物)とともに供える。この時に限らず、盆の期間中に供える食事にはメドハギの小枝で作ったソーローメーシ(精霊箸)という祖霊専用の箸を添える家庭もある。また、この日はウンケーダーグ(御迎え団子)とよぶ団子を供えるが、最終日のウークイ(御送り)に供える家庭もある。団子は他県でも一般的な盆の供物である。

 ナカヌヒー

 14日はナカヌヒー(中の日)やナカビ(中日)とよばれ、この日は仏壇に朝、昼、晩の食事を供える。昼食には素麺(そうめん)を用いた料理を供える家庭が多いが、素麺は他県でも盆の供物や進物として多用されている。盆の素麺は日本古来の麦の収穫儀礼の要素が盆行事に取り込まれた名残といわれ、これも沖縄のシチグヮチが日本の盆行事の流れを汲(く)むことを示すものである。また、沖縄では素麺のほかナカヌヒーにターンム(田芋)やチンヌク(里芋)を供える家庭も多い。

 本家や親戚宅を訪ね、供物(近年は日本風に「御中元」という)を供えて祖霊を拝するのも主にこの14日であった。

 ウークイ

 15日も前日と同じく仏壇に朝、昼、晩の食事を供え、晩にはウークイの儀礼を行って、あの世へ帰られる祖霊を送る(ただし、16日にウークイを行う地域もある)。

 ウークイは家族揃って行い、仏壇にジューバク(重箱に詰めた料理と餅)を供え、一家の主人や年長者が線香を立ててこれからウークイを執り行う旨を唱え拝む。続いて全員がそれぞれ線香を供え、「また来年もお越しくださいませ」と合掌する。

【写真(2)】ウークイの際に門前に出された祖霊への土産物とグーサンウージ

 その後しばらく間をおいて、金属製の鉢などの中でウチカビ(「あの世のお金」とされる銭形を打ち付けた紙)を焼き供えてからジューバクや果物などの供物を仏壇から下げ、その中から幾片かを鉢の中に入れる。続いて花、茶、燃えさしの線香、ガンシナなども入れ、この鉢の中の品々を祖霊があの世へ持ち帰る土産物とする。この後全員で門前へ出て、鉢の中の土産物をクワズイモの葉(最近ではアルミホイルやポリ袋で代用することが多い)で包んだものやグーサンウージを門の外側の路傍に置き、一同合掌して祖霊を送る【写真(2)】。これで3日間にわたる盆の行事が終了する。

 なお、ウークイにはサトウキビや野菜の切れ端を細かく刻んだミンヌクーとよぶ供物を用意する家庭もあり、これはヤナムンへの施しとされる。他県にも賽(さい)の目に刻んだナスやキュウリに生米を加えた施餓鬼(せがき)(生前の悪行により餓鬼となった霊や無縁仏に対する施し)用の「水の子」とよばれる供物があり、これが沖縄のミンヌクーの祖型であることは、その名称や意味、作り方からも明らかである。


 稲福 政斉(いなふく・まさなり) 那覇市出身。県文化財保護審議会専門委員、沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師。主な著書に「ヒヌカン・仏壇・お墓と年中行事―すぐに使える手順と知識」「『御願じょうず』なひとが知っていること」など。