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【寄稿】大野順美 組踊史に意義、宮古舞台新作も <宮古島組踊会旗揚げ公演を観て>


【寄稿】大野順美 組踊史に意義、宮古舞台新作も <宮古島組踊会旗揚げ公演を観て> 組踊「西里兄弟」の一場面(奥平千秋さん提供)
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 9月7日、第1回宮古島組踊会がマティダ市民劇場で開催された。

 組踊は琉球王国崩壊後各地に伝播し、現在も本島や離島で受け継がれているが、なぜか宮古島には根付かなかった。そうした組踊になじみのない土地をあえて切り開いていくと決意した川満香多の旗揚げは、組踊史においても意義ある一歩といえるだろう。

 さて公演はというと、前半が解説・琉球舞踊・組踊抜粋、後半は新作組踊という構成。

 組踊の解説は案内役を中心に複数の出演者が担い、終始アットホームな雰囲気で組踊初鑑賞の観客にも親しみを感じさせた。楽器の紹介では、はやりのアニメ曲を演奏し、若年層も喜ばせた。抜粋「手水の縁」では山戸は瀬名波令奈、玉津は知花ルミが好演。組踊会は今後会員を募集するとのことだが、男女問わず組踊を学ぶ道があると示す意味でも功を奏した配役だっただろう。

 新作組踊「西里兄弟」は、島出身の下地心一郎作。西里兄弟は盗賊に捕らわれるが、兄弟の純粋な孝行心に感銘を受けた盗賊が心を入れ替えて救われるという物語。初演は県立芸術大学内だったが、当時はコロナ禍で無観客上演であった。鑑賞される機会を逸した作品が再度、日の目を見ることになったのは喜ばしい。また宮古島を舞台にした新作を旗揚げ作品に選んだのも、地元の子役を多数登場させる場面を作ったのも、地元の観客に喜ばれ良い効果を得られたように感じた。

 詞章は「女物狂」や「孝行の巻」などからも引用し古典作品を踏まえる一方、音楽ではフェーレー手事など創作曲や宮古民謡を取り入れる工夫もなされていた。

 いたいけな兄弟を演じた下地・砂川博仁、個性が光った砂川徳博・政秀の盗賊手下、瀬名波知佳演じる母の抑えた演技も印象的だったが、特筆すべきは兄弟愛に胸を打たれた盗賊が改心する場面で、盗賊頭を演じる川満が強吟から和吟に唱えを変えることで、心の変化を巧みに表現していた点である。冒頭の組踊解説では男性の唱えでも強吟と和吟どちらも聞かせてくれたが、なぜ2種類あるのかがよく分かる好例となっていた。

 川満は最後に「組踊は1回見ただけでは良さが分からない。何度も鑑賞してほしい」と呼び掛けた。今後は年1回上演する計画だという。流派にとらわれることなく島から次世代の組踊役者が輩出されることに期待したい。

 (一般社団法人ステージサポート沖縄代表)