有料

緩和再修正 景気に冷水も 日銀 政府対策とちぐはぐ感   


緩和再修正 景気に冷水も 日銀 政府対策とちぐはぐ感    長期金利の推移
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日銀は31日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和を再修正した。7月に長期金利上限を引き上げたが、米国発の上昇圧力に直面。想定外の事態に加え、物価高に拍車をかける過度な円安を是正したい政府の思惑も絡み、わずか3カ月で上限の見直しを迫られた。金利操作は限界に近い上、再修正は景気を冷やすリスクがあり、岸田政権が打ち出す経済対策とのちぐはぐ感も否めない。 (1面に関連)

不確実
 「米国の長期金利の上昇が予想以上だった」。植田和男総裁は決定会合後の会見で見通しの甘さを認めた。長期金利の上限を1%に引き上げた7月時点では「すぐに1%には接近しないと考えていた」と率直に語り、金融市場を巡る不確実性が極めて高いと強調した。
 植田氏は長期金利上限を1%まで引き上げた際に「(上限まで上昇する状況を)想定していない」と明言。「念のため(の措置)だ」と説明していた。だが、長期金利はこの3カ月で大幅に上昇。10月に入ると米金利上昇につられ、決定会合直前の10月26日には一時0・885%と約10年3カ月ぶりの高水準を付けるなど、1%に迫っていた。
 長期金利を無理に抑え込もうとすれば、緩和効果が強まる一方、本来あるべき金利水準とかけ離れるゆがみが債券市場で生じ、抑え込みに必要な国債購入額も巨額となる。今年1月には金利上昇を抑え込むために過去最大の23兆6902億円もの購入を強いられた。日銀関係者は「市場動向は簡単に見通せず、金利操作も限界に近い。上限を無理に守っても良いことはない」と警鐘を鳴らした。

警戒
 政府は大規模緩和の副作用として過度な円安進行に神経をとがらせる。米国の金融当局が物価高を抑えようと積極的に利上げを進める一方、日銀は金利を抑え込んでいたため、日米の金利差拡大が意識され円安に振れやすくなっているためだ。
 為替市場では円安基調が続き、10月26日に一時1ドル=150円77銭と約1年ぶりの円安ドル高水準を付けた。心理的な節目だった150円を突破したことで、一段の円安進行を警戒する声は少なくない。
 政府・日銀は昨年10月に円安進行に歯止めをかける為替介入に踏み切って一定の効果を上げたが、財務省幹部は「介入がいつもうまくいくとは限らない。金利は無理に抑え込む必要はない」と明かす。円安は輸入物価の上昇を通じて、一段の物価高の要因となる。政府内には金利を上げる方向の政策修正を求める声があり、日銀の判断にも影響したとみられる。

整合性
 円安と金利上昇で、政策修正の包囲網が狭まりつつある中、日銀は「できれば修正したくない」(日銀幹部)と直前まで慎重な姿勢を崩さなかった。長期金利の上昇で、固定型住宅ローンや企業の借り入れといったコストが増えれば景気の重荷となる。さらに岸田政権が景気を下支えしようと策定中の経済対策との「整合性がつかない」(別の幹部)との声も少なくなかった。しかし、10月に入っての金利急上昇で1%以下に抑え込むことで生じる市場機能低下などのリスクが急速に高まり、上限を柔軟化する再修正に追い込まれた。