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もう一つの24年問題 社保倒産 危機強まる


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 新型コロナウイルス禍や資源高で苦しむ中小企業を支援する現場で、企業が社会保険料を支払えずに倒産に追い込まれる「社保倒産」への危機感が強まっている。
 企業から厚生年金保険料を徴収する日本年金機構は、コロナ禍を受け保険料の納付を猶予する特例措置を設けた。だが、この措置は既に期限を迎え、機構は納付できない企業に差し押さえなどの滞納処分を行う方針だ。
 19年間で90件以上の企業再生を手がけた鳥倉再生事務所の鳥倉大介代表は「年金事務所は、特例猶予の申し込みからトータル4年以内で納付をするよう指導している」と語る。コロナ禍は2020年から本格化したため、24年に滞納処分が急増する恐れがある。
 運送や建設といった業界の時間外労働の規制強化で人手不足などの混乱が懸念される「2024年問題」に加え、社保倒産が「もう一つの24年問題」として中小企業に暗い影を落とすかもしれない。
 鳥倉氏はまた「税務署に比べて、年金事務所は企業の業況改善を考慮しない」とも指摘する。
 企業が赤字なら法人税を支払うことはないが、社会保険料は企業の損益状況に関係なく支払う必要があるからだ。ようやく単月で黒字化した企業に対しても、年金事務所が預金口座の差し押さえなどに踏み切るケースがあるという。
 広島銀行、アサヒビールに勤務した経営コンサルタントの上野英雄氏は「黒字倒産という言葉があるように、会計上の黒字と企業活動に必要な運転資金を確保する資金繰りは異なることを年金事務所は理解すべきだ」と指摘する。
 鳥倉氏は、かつての社会保険事務所には企業実態を考慮する裁量があったが、「消えた年金」と批判された年金記録問題で社会保険庁が解体された反動で「日本年金機構が『裁量なき特殊法人』になり、現在の強硬姿勢につながっているのではないか」とみる。
 機構は「企業の決算書類、資産、損益を確認しながら事業存続に配慮し、分割納付に向けた再協議を行う場合もある」としている。
 社会保険料の収納率向上が重要であることは論をまたない。しかし、収納額を増やすには、企業を立ち直らせる必要がある。今は企業支援に集中すべき時ではないだろうか。(共同通信編集委員・橋本卓典)