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手厚い子育て世帯中心/国民の「負担額」は示さず   


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

政府の少子化対策

 政府は11日、総額年3兆6千億円に上る少子化対策案を公表した。児童手当拡充や多子世帯の大学無償化といった子育て世帯向けに聞こえのいいメニューをずらりと並べたが、国民一人一人が支払う「支援金」の額は示さず、負担増のイメージ回避に終始。子育て当事者からは「社会の理解が得られないままの目先の対応では、少子化は解消されない」との声が上がる。 (3面に関連)

封印
 「前例のない規模での政策強化の具体案を盛り込んだ」。同日夕に官邸で開かれた「こども未来戦略会議」で岸田文雄首相は自画自賛した。
 首相が年初会見で「異次元の少子化対策」を掲げて以来、財源は最大の課題だった。巨額の防衛予算が見込まれるため、新たな増税を早々と封印。代わりに公的医療保険料に上乗せし、現役世代や高齢者、企業から幅広く集める「支援金」制度の創設を決めた。
 政府は歳出削減と賃上げで社会保険の負担を軽減し、その範囲で支援金を徴収するとして「実質負担ゼロ」を強調。2026年度から段階的に拡充し、年1兆円程度を賄う方針を明らかにした。

環境づくりを
 個人の負担額は平均で月500円程度とみられるが、自営業や会社員、高齢者など年齢や職業、所得に応じて大きな幅がありそうだ。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、現役世代と75歳以上の後期高齢者で年間数千円の差が生じるとの独自試算を公表。「世代間で公平に負担するのなら、保険料への上乗せではなく、増税がふさわしい。政府は議論から逃げずに国民に問うべきだ」と指摘する。
 支援金の負担額のモデルケースすら示さない理由について、こども家庭庁幹部は「どうやって計算するかも含め、正確性を期さなければならない立場としては極めて難しい」と説明。
 「経済支援は正直助かる。でも子育て世帯以外から風当たりが強くなるのが心配だ」。保育園児と小学生2人の3姉妹を育てる自営業の女性(39)は複雑な心境をのぞかせる。
 子どもの習い事や進学の選択肢が増えることへの期待はあるが、子育て以前に低収入や将来の年金への不安などで結婚、出産をためらう人も多い。「手当があるから子どもを産もうとは思わないのではないか」。経済的支援だけでなく、安心して子育てをできる環境づくりが不可欠だと訴えた。