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誤進入の注意喚起に管制気付かず 混雑空港、ヒューマンエラーが重なる 羽田衝突炎上


誤進入の注意喚起に管制気付かず 混雑空港、ヒューマンエラーが重なる 羽田衝突炎上
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 国内で最も混雑する羽田空港で航空機同士が衝突した事故は、許可を受けていない海上保安庁機が滑走路に進み、管制官も進入に気付かないなど複数のヒューマンエラーが重なって起きた可能性が強まっている。注意を補う装置が実用化されながら、整備が行き届いていない課題も露呈。同種のトラブルは国内でもたびたび発生し、対策の必要性は10年以上前から指摘されていた。関係者の衝撃は大きく、国土交通省は対応を迫られる。

40秒

 2日夜、日航の最新鋭機が羽田のC滑走路に差しかかると、大きな火柱が上がった。エンジンから火を噴き、走り続ける機体。衝突した海保機から脱出した機長は携帯電話を取り出し「機体が爆発した。他の乗員は不明だ」と基地に連絡した。

 事故機の日航パイロットは「衝突直前に一瞬何かが見えた。何かがすっと通るような違和感を覚え、直後に衝撃があった」とする一方、海保機を視認できなかったと説明。滑走路上に約40秒間とどまっていた海保機に、管制官も気付かないまま衝突したとみられる。

赤信号

 羽田の管制塔には、着陸機が近づく滑走路に別の機体が進入した場合に注意喚起する機能がある。事故当時も正常に作動し、管制官の画面ではC滑走路全体が黄色、海保機と日航機が赤色で表示されたものの、見落としたとの見方が出ている。国交省は緊急措置として、6日から表示を監視する人員を配置した。

 滑走路手前の誘導路には飛行機や作業車両にとって“赤信号”の役割を果たす「停止線灯(ストップバーライト)」もある。国内14空港に導入され、海保機が待機するはずだった場所にも整備済み。管制官は進入指示と同時に消灯操作をし、センサーが機体の通過を検知すると自動的に再点灯する仕組みだ。

 だが現場の停止線灯は制御装置更新工事のため昨年4月から使用できなかった上、視界が600メートル以上の時には使用しない運用マニュアルになっている。事故当時は5千メートル以上の視界があった。

 2010年に福岡空港で起きた滑走路誤進入で、運輸安全委員会は停止線灯について、夜間や視界良好時も含め「誤進入予防策の一つと考えられる」と分析した。

 元国交省航空局安全部長の高野滋さんは「海外では常に停止線灯を使う運用が広がっており、日本もそうする前提で運用の在り方を検討すべきだ」と強調する。

両輪

 これとは別に、滑走路を離着陸する航空機があることを示す「航空機接近警告灯」も設置されている。

 07年に国内各地の空港で誤進入が相次いだことを契機に国交省が対策検討会議を設置し、08年3月の取りまとめで「計画的に整備を進める」とされた。ただ導入されたのは4空港のみで、羽田の事故現場にはない。

 設備による対策も一筋縄ではいかない。01年1月に静岡県沖で起きた日航機ニアミス事故では、航空機衝突防止装置(TCAS)と管制官の指示が食い違う場合の対応が明確になっておらず、管制官の誤った指示に従ったことが一因とされた。

 安全装置が逆にトラブルを生じさせる恐れもあり、高野さんは「新しく導入する際には、その位置付けや役割を明確にしないと混乱が生じる恐れがある。ハード対策は大事だが、装置を生かせるよう手順の設定や組織体制の整備、乗員・管制官の訓練といったソフト面と両輪で進めていくのが大切だ」と話している。

(共同通信)