有料

「すぐに諦めない」天敵育成 害虫捕食、脱「化学農薬」へ 農研機構、30年ごろ実用化


「すぐに諦めない」天敵育成 害虫捕食、脱「化学農薬」へ 農研機構、30年ごろ実用化 害虫アザミウマを捕食するタイリクヒメハナカメムシの幼虫(農研機構提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は27日までに、ナスの害虫を長時間、粘り強く探して捕食する「すぐに諦めない」昆虫の育成に成功したと発表した。「天敵農薬」として畑に長く滞在させ、環境や健康への影響が懸念される化学農薬の代わりを目指す。2030年ごろの実用化を目標にイチゴやキュウリなど他の作物への適用も狙う。
 育成したのは、野菜などの害虫アザミウマ(体長1~2ミリ程度)を食べるタイリクヒメハナカメムシ(同約2ミリ)。ハウス栽培などで害虫駆除に利用されているが、餌を求めて別の場所に移動してしまうなど定着の難しさが課題だった。
 農研機構は、歩行距離が短いほど同じ場所で餌を探す時間が長くなる傾向に着目し、歩行活動量が低い個体で数十世代にわたって選抜と育成を繰り返したところ、ナス畑での定着効果が倍増したという。世古智一上級研究員は定着効果を4~5倍程度に上げたいとし「さらに改良すれば、天敵昆虫の利用が難しかった作物や環境でも活躍が期待できる」と意気込む。
 農研機構によると、世界の農作物の約16%が害虫などにより被害を受けるという。ただ殺虫剤などの化学農薬は使い続けると害虫に耐性がついて効きにくくなったり、益虫に影響が及んだりするデメリットもある。薬剤の開発コストも増大しており、脱依存が課題だ。
 農林水産省は持続可能な農業を目指し、50年に化学農薬の使用量を50%低減し、有機農業を総耕地面積の25%に拡大する目標を掲げている。天敵昆虫への期待は高まりそうだ。
害虫アザミウマを捕食するタイリクヒメハナカメムシの幼虫(農研機構提供)
 天敵昆虫 野菜や花に発生する害虫を食べたり、寄生したりして殺す昆虫。アブラムシを食べる種類のテントウムシなどがある。「生物農薬」として販売されるものもあり、生きたまま農場に放して使われる。化学農薬と比べ、動物や周辺の生態系への影響が少ないのが利点。ただ効果が不安定で使い方が難しいなどの課題もある。日本では飛ばないテントウムシが開発された。