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初診・再診料引き上げ 生活習慣病では一部下げ 医療人材確保 効果は不透明 診療報酬改定 デジタル化には賛否


初診・再診料引き上げ 生活習慣病では一部下げ 医療人材確保 効果は不透明 診療報酬改定 デジタル化には賛否 患者負担の主な変更点       ※自己負担3割の場合。厚生労働省による
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府は2024年度診療報酬改定で医療従事者の賃上げを重視し、初診料などを引き上げる。処遇改善による人材確保が狙いだが「十分ではない」との声があり、効果は不透明だ。オンライン診療を推進し、医療の質を確保しつつ患者の利便性向上も図るが、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の普及策には反発が根強く、デジタル化政策は賛否が交錯する。 (3面に関連)
 「賃上げで業務に見合った給与となり、看護師らの確保につながる可能性がある」。離島にある長崎県上五島病院(同県新上五島町)の一宮邦訓院長は声を弾ませた。
 病院に勤務する看護師数は定員を2割下回り、人手不足が深刻だ。病床削減を余儀なくされ、医師らの負担も重い上、町民からは「待ち時間が長い」といった不満が漏れる。改善に向け、賃上げによる効果への期待は大きい。
 これに対し、岐阜県で診療所を営む医師は「生活習慣病の報酬見直しで収入が1割減るかもしれない。初診料の増額も十分な賃上げには足りない」と憤る。「今回の改定後に診療所の廃業が相次ぎ、医療崩壊を招きかねない」と危機感を抱く。

オンラインで

 今回の改定はデジタル化促進を強調した。医師が少ない地域や災害時などでは、オンライン診療活用により患者に大きなメリットがありそうだ。
 大阪市立総合医療センターは、専門医がてんかん患者にオンライン診療を行う。「発作はなかったかな」。1月下旬、小児脳神経内科の岡崎伸部長がパソコンの画面に向かい優しく尋ねた。映っているのは秋田県に住む6歳の男の子と、母親の女性だ。
 岡崎部長は発作の様子を把握するため、女性が撮影した動画を専用アプリで確認。少しでも薬の量を変える時は、間違えないようにチャット画面にも打ち込み、患者とともに入念にチェックする。患者は薬局による指導もオンラインで受けられる。薬は自宅に郵送される。
 1月に発生した能登半島地震を受け、センターは被災地のてんかん患者を紹介状なしで受け付けている。岡崎部長は「さまざまな不安が軽くなるよう、お手伝いしたい」と語る。

マイナトラブル

 政府がデジタル化の推進力としたいのは、過去の診療情報などデータ参照機能を持つマイナ保険証だ。しかし個人情報とのひも付けミスが重なり、利用率は4%台と低迷する。
 現行の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する期限は12月。政府は利用率アップのため新たな加算を設けた。医療機関から患者への働きかけを強めるのが狙いで、厚生労働省幹部は「やれることは何でもやる」と懸命だ。加算は患者の負担増につながり、批判も予想される。
 各地の医師でつくる全国保険医団体連合会によると、現在も医療機関の窓口では、患者が医療費の10割を請求されるシステム上のトラブルが相次ぐ。竹田智雄会長は「医療機関に(マイナ保険証の)営業活動をさせようとしている」と政府の方針を非難する。
 山形大の村上正泰教授(医療政策学)は「医療の質と量の確保には、国民も一定の負担増を受け入れないといけない。政府は報酬を引き上げる理由を丁寧に説明し、効果を検証して次の改定に反映すべきだ」と語った。