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<表層深層>少子化対策関連法案国会へ/負担ゼロ固執、世論は反発/支援金徴収 野党「子育て増税」


<表層深層>少子化対策関連法案国会へ/負担ゼロ固執、世論は反発/支援金徴収 野党「子育て増税」 支援金を巡る政府の説明と与野党発言
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府が16日に国会提出した少子化対策関連法案は、財源確保のため、幅広い世代から公的医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」創設を盛り込んだ。岸田文雄首相は社会保障の歳出削減で「実質負担ゼロ」との説明に固執するが、かえって世論の反発を招く結果に。野党は「事実上の子育て増税」と追及する構えで、今後の論戦は波乱含みの様相だ。 (3面に関連)
 「子育て支援の充実より、負担が増える不安の方が大きい」。川崎市で2人の小学生を育てるパートの女性(42)はつぶやいた。会社員の夫と共働きだが、物価高騰に加え、住宅ローンの返済などがかさみ、生活に余裕はない。
 法案には、第3子以降の児童手当の倍増や、親が就労していなくても保育サービスを利用できる「こども誰でも通園制度」などの施策が並ぶ。政府は前例のない規模の給付拡充と強調するが、女性は「対象は一部に限られ、保護者同士でも関心は高くない」と冷めた視線を送る。
 政府は支援金の徴収額が2028年度には1人当たり月平均500円弱になると試算。女性は「夫婦で年間1万2千円。安くない」と漏らす。
 岸田首相は支援金について「実質負担ゼロ」の説明に終始している。少子高齢化の進行に伴い医療や介護の社会保険料は年々上昇するが、歳出削減の徹底で保険料の伸びを抑えれば、支援金の上乗せ分が“相殺”され、新たな負担は生じないとの理屈だ。
 しかし支援金の徴収によって家計の負担が増えることに変わりはなく、直近の世論調査でも批判的な意見が目立つなど目算に狂いが生じている。
 身内の自民党議員からも「『負担ゼロ』は詭弁(きべん)だ。正直に負担をお願いした方がよい」との声が上がる。公明党の高木陽介政調会長は2月上旬、水面下で官邸幹部と接触し、説明の変更を要求。だが首相の発言は変わらず、高木氏は14日の記者会見で「(負担ゼロは)分かりにくく、国民の理解が進まない要因だ」と苦言を呈した。首相周辺は「100%自信がある仕組みだが、理解してもらうのがなかなか難しい」とぼやいた。
 「全世代で子育て世帯を支える」という理念とは裏腹に、支援金を巡る混乱は世代間の分断という火種をはらむ。「1人当たり月平均500円弱」との政府試算も、実際の徴収額は一人一人の所得水準や、加入する医療保険によって大きく異なるからだ。
 日本総合研究所の西沢和彦理事の試算によると、医療保険別の1人当たり月平均徴収額は75歳以上の後期高齢者医療制度が253円、自営業者らの国民健康保険が746円を見込む。
 一方、会社員は実際に給料から支援金が天引きされる被保険者1人当たりで見ると、中小企業の「協会けんぽ」は1025円、大企業の健保組合は1472円(いずれも労使合計)。所得が高ければさらに金額は増える見込みで、高齢者とは千円以上の開きが生じる。
 政府関係者は「個別の徴収額を出せば不平等だと責め立てられるだろう。」とジレンマを口にした。