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H3打ち上げ成功 国産ロケット ビジネス参入課題 低コストや信頼性向上


H3打ち上げ成功 国産ロケット ビジネス参入課題 低コストや信頼性向上 H3ロケット2号機の打ち上げを受け、記者会見するJAXAの岡田匡史プロジェクトマネジャー=17日午後、鹿児島県の種子島宇宙センター
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 国産新型のH3ロケットは、日本が自前のロケットを自由に打ち上げられる自立性と、世界的な宇宙開発競争が激化する中での優位性の確保を目指す。2号機の成功で、目標とする衛星打ち上げビジネスへの本格参入に向け一歩前進したが、競争力を得るには低コスト化や信頼性向上など、多くの課題が残る。
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ど真ん中

 「宇宙業界に入って長らくたつが、こんなにうれしく、ほっとした日はない」。17日午後、種子島宇宙センター(鹿児島県)で記者会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は安堵(あんど)の表情を浮かべた。
 1号機の失敗から約1年。17日午前9時22分に同センターを離陸した2号機は、約5分後に1号機失敗の原因となった2段目エンジンが正常に点火、約16分後には予定の軌道に入り、約1時間48分後に模擬衛星の分離が確認された。
 開発責任者の岡田匡史プロジェクトマネジャーは「タイミングや経路を見ると、ほぼ『ど真ん中』」と評価。「重い肩の荷は下りたが、これからが勝負だ」と前を見据えた。

価格競争

 H3は現在主力のH2Aの後継機で、衛星の大型化や複数の小型衛星を連携させる「衛星コンステレーション」などに対応できるロケットとして、JAXAと三菱重工業が2千億円超をかけて共同開発した。今後20年、日本の宇宙輸送を担うとされる。米主導の月探査「アルテミス計画」でも、月上空の新宇宙基地への物資輸送で活用が期待されている。
 成功率約98%と高い信頼性を誇るH2Aは、打ち上げコストが約100億円と価格競争で苦戦。受注した商業打ち上げは英国、韓国などからの5件のみで、H3は半額の約50億円を掲げて受注増を目指す。
 ただ、新たな主エンジン開発の難航や1号機失敗で開発計画は大幅に遅れた。当初は2号機で予定した、固体ロケットブースターを使わず、主エンジンのみで打ち上げる「低コスト版」での打ち上げ計画は立っていない。三菱重工の江口雅之執行役員は会見で「10号機か15号機ぐらいには、競争力が出るように持っていきたい」と話した。

広がる差

 急増する衛星打ち上げ需要を受け、世界のロケット打ち上げは2023年は212回と過去最多を更新した。最多の米国が108回で突出し、そのうちイーロン・マスク氏が率いるスペースXが96回で市場をほぼ独走する。近年台頭が著しい中国は68回、インドは7回と回数を着実に伸ばす。
 一方で日本はH3の開発難航や、小型固体燃料ロケット「イプシロン」6号機の失敗などで、22年は04年以来の打ち上げ成功ゼロ。23年も2回だけで差は広がる。
 宇宙開発に詳しい大同大の沢岡昭名誉学長は「中国はスペースXを超える価格破壊をする可能性があり、日本は半額だけでは太刀打ちできなくなる」と指摘。「(コスト削減のほか)打ち上げの遅延や失敗がない姿を見せ、技術面で信頼を得ていくべきだ」と話す。
 スペースXの成長を支えるのは1段目ロケットの再使用だ。実験を繰り返し、打ち上げ後に発射場に戻る誘導システムと姿勢制御技術を獲得した。一方、H3は従来通りの使い捨て型。東京理科大の米本浩一教授(航空宇宙工学)は「H3の後継機となる次の世代のロケットでは再使用化が鍵となる」と強調する。