2024年に始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)では、投資枠が広がっただけでなく、非課税の期間が無期限になった。「貯蓄から投資へ」の流れが加速すれば、地方銀行など地域金融機関から預金が大量流出しかねない。地銀などには、こうした試練にどう立ち向かうかが問われている。
新NISAでも「1人1口座」のルールが維持され、利用者は一つの金融機関でしかNISA口座を持てない。このため、幅広い投資信託を取り扱い、国内外の上場株式を低い手数料で売買できるSBI証券、楽天証券などのインターネット証券がNISA口座数を増やすのは確実だ。
ネット証券は、クレジットカードで積み立て投資をすると、ネットショッピングでも使えるポイントを還元する「経済圏」ビジネスでも顧客の囲い込みを進めている。
物価上昇が続けば、ほとんど利息の付かない預金の価値が相対的に下がることも新NISAの追い風となっている。
こうした状況に地銀は危機感を募らせる。ある地銀幹部は「ネット証券に新NISA口座を奪われるわけにはいかない。営業ノルマを課して、口座獲得を進めた」と明かす。
危機感の背景には、日銀の金融政策運営がある。日銀は物価安定目標の達成が見通せる状況になれば、金融政策の正常化を検討する方針で、市場では日銀が3月か4月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除に踏み切るとの観測が強まっている。
解除すれば17年ぶりの利上げとなり、地銀は貸し出しビジネスの収益改善が見込める。
ただ地銀が収益を得るためには、長期の貸し出しの元手となる預金を確保する必要がある。しかも、長期にわたって銀行にとどまる「粘着性のある預金」でなければならない。
新NISAの開始をきっかけに、預金から投資に一定程度の資金が移行することは地銀も想定済みだ。しかし預金がネット証券に大量に流出し、戻ってこない事態は防がなければならない。
地銀は、ネット証券に預金を奪われないように資産運用サービスを強化し、「粘着性のある預金」を確保できるのか。新NISA開始で変わるお金の流れにどう対応するかが、24年の地域金融の焦点となる。
(共同通信編集委員・橋本卓典)
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<地域金融の現場から> 預金大量流出懸念/地銀、新NISAで試練
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琉球新報朝刊