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生活実感ほど遠く 半導体が市場けん引 賃上げ、消費拡大が課題


生活実感ほど遠く 半導体が市場けん引 賃上げ、消費拡大が課題 バブル経済期からの日経平均株価の推移
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新した。けん引役はバブル経済期の金融株から半導体株に交代。中国から逃げ出した投資マネーも流れ込み、市場の景色は一変した。年内に4万2000円へ上昇するとの予測もある強気相場だが、足元の景気は物価高で低迷し、生活実感とはほど遠い。

先読み
 東京・日本橋兜町。岩井コスモ証券のディーリングルームには、22日朝から電話が殺到した。午前10時過ぎに平均株価が1989年末の終値の最高値を上回ると、本間大樹東京コールセンター長は「新しい時代のスタートです」と高揚した口調で述べた。
 株式市場の主役は時代とともに変わった。リゾートマンションが飛ぶように売れ、タクシーがつかまらなかったバブル期は銀行株。2000年前後のITバブルでは光通信など情報通信株が注目の的だった。今の主力銘柄は半導体関連株だ。米大手エヌビディアなど次世代を担うと期待される企業が国際金融市場の関心をさらい、投資家は足元の半導体市場の需要を先読みする。
 中国からの投資マネーも株価を押し上げる。中国では景気減速から抜け出す糸口が見えない。欧州系運用会社アムンディ・ジャパンの石原宏美氏は中国から日本などに「投資のシフトが起きている」と話す。
直撃
 日本のバブル経済後の底は09年3月。平均株価の終値は7054円に落ち込んだ。08年のリーマン・ショックに端を発した景気悪化が響いた。回復基調を取り戻したきっかけは、デフレ脱却を目指した安倍晋三元首相の経済政策で、日銀の黒田東彦前総裁は異次元の金融緩和に踏み込んだ。株価は上昇気流に乗り「アベノミクス相場」ともてはやされた。金融緩和による円安進行は企業収益を膨らませたが賃上げは実現せず、ここ数年は物価高が生活を直撃した。物価高の影響を差し引いた実質賃金はマイナスに沈み、経済を支える個人消費も縮小している。
 野村総合研究所の木内登英氏は「個人の生活が強い逆風にさらされている一方で株価が上昇し、経済や生活実感との間に大きなずれが生じている」と指摘する。
混乱
 市場ではなお強気な見方が優勢だ。東京証券取引所は23年、企業に株価を意識した経営を求めた。経営の変化を促すとして海外投資家が注目しており、UBS証券の守屋のぞみ氏は、企業が株主への利益還元にとどまらず、採算性の低い事業の見直しなどを進めれば「株価の上振れにつながる」と指摘する。SMBC日興証券は9月末までの上値を4万2000円と見通す。「米国の利下げが視野に入り、製造業を中心に企業業績が伸びる」(安田光氏)とみる。
 ただリスクは国内外にある。日本の賃上げが今春闘で一部にとどまった場合、投資家の失望感は大きそうだ。11月の米大統領選も不安材料で、トランプ氏が返り咲けば世界経済が再び混乱するとの懸念も渦巻く。株価の勢いが続く確証はない。