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中国禁輸、解決糸口見えず 原発処理水海洋放出半年 漁業打撃、販路開拓が急務


中国禁輸、解決糸口見えず 原発処理水海洋放出半年 漁業打撃、販路開拓が急務 日本の農林水産物・食品の輸出額
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出してから半年。中国は日本産水産物の輸入を停止し、いまだに解決の糸口は見いだせない。国内の漁業関係者への打撃は深刻で、新たな販路の開拓が急務だ。政府が進める輸出戦略の見直しを迫られる可能性もある。 (3面に関連)

 ◇想定外

 「処理水放出開始前の昨年5月から中国の買い控えが始まった。規制も含め一時的だと思っており、全面禁輸は全くの想定外だった」。北海道紋別市でホタテの冷凍加工に携わる丸栄水産の森悦男社長(56)は深いため息をついた。毎年1万トン近くの殻付きホタテを扱い、うち7割を中国に輸出してきたが、放出以降は取引がゼロに。行き先を失ったホタテは、自社や新たに借りた冷凍庫で保管している。
 国内市場は飽和状態で価格が低く、2023年度の売り上げは例年の3分の1まで落ち込む見込み。東電への賠償請求に必要な書類は段ボール1箱分にもなりそうで、手続きの簡素化も訴える。
 この半年手探りを続け、中国の代わりにベトナムやタイに輸出できるめどが立った。森社長は「中国に比べ市場規模は小さいが、今は東南アジアに懸けるしかない」と決意する。北海道漁連の担当者は「国にいくら支援策を講じてもらったところで、禁輸が撤廃されない限りは根本解決にはならない」と話した。

 ◇多角化

 「素晴らしい日本の水産物の流通現場を見ていただき、日本産水産物の輸出拡大に向けて発信してほしい」。坂本哲志農相は今月19日、東京都江東区の豊洲市場に集まったシンガポールなど東南アジア6カ国の在京大使ら関係者を前に水産物の魅力をアピールした。
 輸出戦略を強化する日本にとって、中国の禁輸は影響が大きい。23年の農林水産物・食品の輸出額は中国向けがトップを維持したが、中国への水産物輸出は29・9%減の610億円だった。
 政府は農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円に引き上げる目標を掲げており、中国に代わる新たな販売先の開拓につまずけば、目標達成が難しくなる。ある農林水産省の幹部は、米国向けホタテの輸出が伸びており「良い兆しもある」としつつも「中国を補うまで届いていない。さらなる多角化が必要だ」と訴える。
 日中経済協会や経団連など経済界の代表団は今年1月、北京を訪問した。経団連の十倉雅和会長らは中国共産党ナンバー2の李強首相と会談し、処理水放出に伴う日本産の水産物輸入停止措置の撤廃を要求。李氏に手渡した提言書で「両国関係の維持発展に前向きな対応を期待する」と強調した。
 中国側からは明確な回答を得られず、十倉氏は会談後の記者会見で「全てその場で解決する簡単なものではない。意見交換を通じて少しずつ解決するものだ」と語った。
 ある日本政府関係者は禁輸の解除は「大きな政治決断がないと進まない」として、日中の政治や経済関係の中で「落としどころが見いだせないか探っている」と話した。