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穀物高騰、国産に力 ウクライナ侵攻2年 輸出国との関係深める


穀物高騰、国産に力 ウクライナ侵攻2年 輸出国との関係深める 政府の食料安全保障強化に向けた動き
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 世界の穀倉地帯ウクライナへのロシアの侵攻後、穀物価格が高騰し、小麦の約8割を輸入に頼る日本でも麺類など食料品が値上がりした。政府は小麦の国産化を支援するとともに、輸出国との関係を深めている。食料安全保障の強化に向けた「食料・農業・農村基本法」の改正作業は大詰めを迎えた。 (1面に関連)
 日本は小麦を主に米国、カナダ、オーストラリアの3カ国から輸入している。侵攻後に小麦の国際価格は急騰し、政府は製粉会社に売り渡す輸入小麦の価格抑制策を発動した。それでも2023年4月期(4~9月)の政府売り渡し価格は1トン当たり7万6750円と07年4月以降の最高値になった。
 23年の小麦の国内生産量は約110万トンで6割超を北海道が占める。農林水産省は小麦の生産拡大に向け、コメから小麦への作付け転換や生産の大規模化を支援している。小麦の値上がりを受け、食品メーカーが原料を国産に切り替える動きも相次いだ。
 侵攻後に肥料や飼料などの農業資材も値上がりし、農業物価統計によると23年の肥料価格は20年比約1.5倍となった。特に化学肥料原料でほぼ全量を輸入している尿素やリン酸アンモニウムは供給網混乱への対策が急務で、政府は肥料原料の備蓄のほか堆肥や下水汚泥など国内資源の有効活用も進める。
 農水省は昨年11月、カナダ政府と食料安保に関する政府間の対話を始め、日本側は緊急時に2国間で協議する枠組みの創設を提案。カナダのような小麦や肥料の供給国との関係強化を目指す。
 食料安保への危機感から、22年9月に岸田文雄首相は農政の憲法とも呼ばれる農業基本法の見直しを指示し「農林水産政策を大きく転換していく」と強調した。基本法の改正案は基本理念に食料安保の確保を掲げ、安定供給のための生産基盤の維持や、輸出を増やして供給力を強化することなどが柱となる見通し。
 農水省幹部は「ウクライナの事象を考えれば、今回の法案でカバーできることは大きい」と説明する。一方、ある農家は「輸入に頼る前提で、食料の生産基盤強化につながるのか分からない。何かあれば一番困るのは国民だ」と疑問を呈した。