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中小 賃上げ余力乏しく 波及効果なお不透明 春闘 大手賃上げ続々


中小 賃上げ余力乏しく 波及効果なお不透明 春闘 大手賃上げ続々 中小企業の賃上げ予定
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 今春闘の集中回答日を迎え、自動車や電機大手は過去最高水準の賃上げで相次ぎ妥結した。人材獲得へ労働組合の要求を上回る異例の回答も続出。バブル崩壊後に染みついた守りの経営を転換する姿勢が目立った。一方、中小企業は大手との取引で値上げできず苦悩し、賃上げの余力に乏しい。春闘の動向を踏まえ、日銀が来週下す金融政策の判断も注目される。 
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 日本製鉄は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)相当分が月額3万5千円と回答。労組の要求に5千円上乗せした。「世界ナンバーワンへの復権に向けて取り組んでいる。一流の処遇にふさわしい一流の実力を発揮してほしい」。三好忠満執行役員は従業員に奮起を促した。
 利益をため込む企業に政府が賃上げを迫る―。安倍政権以降の「官製春闘」は、暮らしを圧迫する物価高と、人手不足の深刻化で新局面に入った。企業は自発的に賃上げを進めないと、望む人材の確保はままならない。
 電機大手はベア月額1万3千円で、ほぼそろった。満額回答だが、幹部は「日鉄のような要求超えの回答が出ると、満額回答でも低く見える。事業内容が異なる電機業界で、同じ要求を掲げる『統一闘争』を続けるのは無理があるのではないか」と話した。
 賃上げは中小企業でも広がっている。日本商工会議所の調査では、2024年度に賃上げを予定する中小企業は61・3%と前年度から3・1ポイント増えた。しかし、賃上げ予定企業のうち、業績は低調だが賃上げするとの回答が過半を占めた。人材確保のためとみられ、内情は厳しい。
 「別の企業への発注も検討したい」。自動車のエンジン部品などを生産する焼結合金加工(川崎市)の高柳昌睦社長は値上げ交渉を始めた22年、取引先に伝えられた。交渉は難航し、その間に入った注文を従来価格で納入する事態に陥った。
 だが最近になり、取引先から値上げ交渉の申し出があった。政府は、労務費を取引価格に転嫁できるようにするための指針を23年11月に公表しており、高柳社長は「かなり効いている」と評価。大企業に価格転嫁への積極的な対応を求めた。
 首都圏の別の自動車部品メーカーは、新型コロナウイルス流行後の業績悪化を受け、組合員の2割が会社を去った。昨年は従業員を引き留めるためにベアを実施したが金額は3千円にとどまった。組合幹部は「大手との賃金格差は広がる一方だ。大手は中小への賃上げ波及を願うというが、きれいごとだ」と嘆いた。
 法政大の山田久教授(労働経済)は「大手を中心に賃上げの流れが定着してきたが、中小への広がりは不十分だ」と指摘する。政府は、価格転嫁の後押しに加え「企業同士で人材育成の仕組みを共有するなど、連携を促す政策を講じ、中小の生産性を高めることが必要だ」と強調する。
 日経平均株価が今月には4万円を突破した。企業が人への投資を増やし始め、長期低迷が続いた日本経済は転換点にあるのか―。日銀は18、19日に開く金融政策決定会合で、大きな節目となる利上げなど政策変更を議論する。