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人気の公約、財源が壁に 政府主導求める声も 給食無償化拡大


人気の公約、財源が壁に 政府主導求める声も 給食無償化拡大 小中学校の給食を無償化した自治体
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 家庭が支払うのが一般的だった給食費を、公費で賄う動きが広がっている。この数年で大きく進展し、昨秋時点で自治体の3割が公立小中学校での無償化を実現した。公約に盛り込む首長らが目立ち、子育て支援として人気を得やすいとの思惑もありそうだ。一方、財源が壁となって二の足を踏む自治体も多く、地域格差が生じる懸念は拭えない。政府主導の一律実施を求める声が強まる。 (1面に関連)

コロナ転機

 「給食費は保護者の負担とする」。学校給食法に定められたこの一文により、長年多くの自治体が費用を家庭に求める運用を続けてきた。2017年度調査でも、小中の完全無償化を実現したのは自治体の4%にとどまり、小規模町村が中心という結果だった。
 文部科学省によると、転機は新型コロナウイルスの流行。家計悪化を背景に、支援に乗り出す自治体が増えた。コロナに関連した国の交付金を給食費に回すことが可能だったことも後押しした。大阪市が20年度に無償化を始めるなど、徐々に都市部へ拡大した。
 青森県は今年10月から県内全ての公立小中での無償化を決定。都道府県単位の一律実施は初めてで、本年度の経費は約20億円と見込む。宮下宗一郎知事は「子育て世帯が幅広く恩恵を受けられるようにした」と説明する。
 文科省関係者は「子どもの医療費無償化がかなり浸透し、次の目玉として注目されているのだろう」とみる。

不公平感

 ただ、財源が限られる中で、全ての自治体が最優先課題とするのは難しい。広島市は交付金を給食費補助に振り向けたが、無償には遠い。「多額の経費が必要なので、国の責任で負担する制度にするべきだ」と市担当者。周辺自治体の動きを気にしながら、国への要請を続ける。
 「ある程度の負担は仕方ないとは思うが、暮らす場所によって差が出るのは不公平感がある」。広島市で小学生2人を育てる女性会社員(45)は不満を口にする。
 いったん無償化し、取りやめた自治体も。愛知県刈谷市は23年6~12月、物価高騰に対応するため小中学生の給食費を一時的に無償にしたが、その後は保護者負担を軽減する仕組みに変更した。担当者は「交付金を当てに期限を決めて無償化した。今後も続けるとすれば必要額は大きく、慎重な検討が必要」と話す。

福祉的視点

 給食は貧困家庭の子どもの栄養を改善する福祉的な視点でも重視される。少子化対策に力を入れる自民党をはじめ、近年は複数の与野党が「安心して給食を食べられる状況が必要」などと主張し無償化を大きな政策目標に据える。全国一律導入なら必要経費は年5千億円程度と試算される。
 政府は昨年6月に公表した「こども未来戦略方針」に、今回の調査を踏まえて具体策を検討すると明記した。埼玉、千葉、神奈川の3県知事が今年5月、居住地によらず無償となるよう文科省に財源確保を求めるなど政府への期待は高まる。
 千葉工業大の福嶋尚子准教授(教育行政学)は「子どもが家庭や世の中の状況に左右されず安全で栄養価が高い給食を食べ続けられることが非常に重要だ。国と都道府県、市区町村で費用を分担し、全国一律で無償提供できる仕組みを整えなければならない。政府の責任で進める必要があるだろう」と強調した。