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苦境映す小出しの修正 市場は足元見透かす 日銀、国債購入減額


苦境映す小出しの修正 市場は足元見透かす 日銀、国債購入減額 14日午後、記者会見する日銀の植田総裁(下)と円ドル相場の推移のグラフ(介入の日付は市場予想)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

日銀は14日、金利を低く抑えるために実施している国債買い入れの減額方針を決めたが、開始時期や減額幅は次回7月会合で決めるという折衷策だった。急な引き締めで景気が悪化することは避けたい一方、歴史的な円安を前に「ゼロ回答」もできない苦しい立場を映す小出しの修正となった。市場は日銀の足元を見透かし、円売りを進める場面もあった。 (1面に関連)

既定路線

「丁寧に(減額計画の)決定のプロセスを進めたい」。植田和男総裁の記者会見は慎重な物言いがいつになく目立った。
植田氏は3月のマイナス金利政策の解除後、金融政策の正常化に取り組む中で国債購入は「減額することが適当だ」と繰り返し説明してきた。
市場では今会合で減額幅や時期を示すのは既定路線との見方も多かったが「予告」にとどめて具体策を先送りしたのは急な減額が金利の急上昇を招くのを警戒したためだ。
日銀は5月13日、決定会合での議論を必要としない日常的な金融調節の一環として、国債の買い入れ予定額を従来と比べて500億円減らした。市場は減額を想定しておらず、最大の買い手である日銀が今後も購入を減らしていくのではないかとの思惑が強まった。国債が売られて長期金利は上昇し、22日には11年ぶりに1%に達した。

是正圧力

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「日銀の石橋をたたいて渡る慎重な姿勢が前面に出た」と指摘した。長期金利が急上昇すれば、銀行が住宅ローンの固定金利を引き上げ、企業にとっても借り入れ負担が大きくなり「日本経済に悪影響を及ぼす状況を避けようとした」と説明した。
物価と賃金が勢いよく上がった米国などと違い、実質賃金の減少が続き、消費が弱い日本では、金利の上昇は景気に冷や水を浴びせかねない。
その一方で、日銀には政府から円安是正の圧力ものしかかる。円安はインフレと合わせて政治的に受けが悪く、政府は神経をとがらせる。政府内で日銀の情報発信を問題視する声は、前回の4月26日の決定会合後の記者会見で植田氏が円安を容認しているかのような発言をして以来、一気に高まった。
植田氏は会見で円安が基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていないと説明し、現時点で無視できる範囲なのかと問われると「はい」と述べた。これを受け、円安が一気に加速。政府は大規模な円買い介入を余儀なくされた。5月7日、官邸に呼びつけられるかたちで岸田文雄首相と会談した植田氏は「(円安を)十分注視をしていくことを確認した」と記者団に説明。軌道修正を図るように円安懸念を強調する発言が増えた。

基本戦略

今後の焦点は追加利上げの時期だ。政策金利を引き上げれば、住宅ローン契約者の7割が選ぶとされる変動金利もいよいよ上がる可能性がある。
日銀は、景気の腰折れを防ぎつつも、円安を是正するという難しい課題を抱える。円安の主な原因は米国の金利高であり、日銀自身が操作できるものではない。時間を稼ぎながら、米国の利下げや日本国内の賃金上昇を待つのが基本戦略とみられる。
ただ6月14日の発表後は減額の具体策先送りで1円近く円安に振れた場面があり、果断に動かないことが市場につけ込まれる可能性もある。日銀の戦略が功を奏するかは予断を許さない。