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突然の公表、続く後手 体質に疑念、解消見えず 小林製薬紅こうじ問題   


突然の公表、続く後手 体質に疑念、解消見えず 小林製薬紅こうじ問題    小林製薬のサプリメント「紅麹コレステヘルプ」(向かって右上)とサプリ関連の健康被害について取材に応じる武見敬三厚生労働相(右下)、サプリを製造していた同製薬大阪工場=2023年12月閉鎖=(左)を組み合わせたコラージュ
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 小林製薬が、紅こうじサプリメントと死亡の因果関係が疑われる事例76人を突然公表した。国にすら直前まで報告せず武見敬三厚生労働相は怒りを隠さない。問題の発覚当初から小林製薬の開示は後手の対応が続き、健康に関連する企業でありながら対応のまずさを露呈している。隠蔽(いんぺい)を疑われかねない企業体質で、ガバナンス(企業統治)に生じた疑念は解消が見えない。 (22面に関連)

心外

 「27日になって初めて(被害の)全体像が示された」。武見氏は28日午後のぶら下がり記者会見でこう述べ、自発的に報告しなかった小林製薬の対応に不満をにじませた。厚労省関係者によると武見氏は、新たな死亡疑いがあると説明に来た幹部に「何をやっているんだ」と怒鳴ったという。
 小林製薬からの報告を基に厚労省が更新している資料の死者数の欄は6月26日時点で「5」のまま。同省幹部は「通院や入院の報告人数は増えてきたのに、死者数は変わらなかった。因果関係が不明な例も早く報告するよう求めていたのに、会社に伝わっていなかったのは心外だ」と話す。
 小林製薬は1月に健康被害を把握しながら約2カ月間、行政に報告していなかった経緯がある。報告遅れが繰り返されたことに武見氏は会見で「まさにこれからそれも含めて調査をする。その上で今後の対処方針を考える」と語気を強めた。

はりぼて

 問題の発覚以降、小林製薬の情報開示はたびたび問題となった。最後に開いた3月29日の記者会見で小林章浩社長は「もう少し早くと言われれば言葉もない。スピードの是非は真摯(しんし)に検証したい」と反省を口にしたが、国や消費者に積極的に情報を伝える姿勢はいまだに見えてこない。
 小林製薬は2013年、取締役に企業統治の専門家として知られる一橋大CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏を迎えた。企業統治の強化をアピールしていたが、青山学院大の八田進二名誉教授は「有名な社外取締役も機能せずお飾りで、ガバナンスははりぼてだ。健康食品を扱い安全安心を使命としながら、誠実さが全くない。隠蔽体質だ」と痛烈に批判する。
 死亡疑いが急増したのは、小林製薬が被害調査の対象を腎関連疾患と診断されたケース以外にも広げたためだ。高齢者や基礎疾患がある場合は腎関連疾患がなくても、体力低下など間接的な要因で入院や死亡に至った可能性があると判断した。
 健康被害の原因はまだ解明されていない。厚労省はサプリの原料から検出された「プベルル酸」が腎臓に悪影響を及ぼすことを確認。4月には、プベルル酸以外の2種類の物質も検出されたことが判明した。体にどのような影響があるのかは分かっておらず、小林製薬は「腎関連疾患に焦点を当てて関連性を判断していたことが実態を正確に把握するものではないと認識した」と釈明。これまでの調査姿勢から事実上の方針転換をした。
 ひらくクリニック(東京都)の吉田啓院長(腎臓内科)は「サプリによる被害が全て腎障害だとは考えづらい」と指摘する。腎機能の低下は採血で確認でき、悪化しても透析治療を受ければ命を落とすとは考えにくいという。「高齢者は持病や入院などの環境変化で、筋力低下による合併症や肺炎を引き起こすケースもある。さまざまな可能性を含めて調査を進めてほしい」と話した。